《MUMEI》
バランス
少女漫画に出てくる胸きゅんシーンみたいなセリフ、言うのね。


「まったく! 迷子になっても知らないわよ!」

「うん。 一緒に迷子になろ」


一回りも歳が離れているとは、こんなものなのだろうか?
悠輔はやはり、これまでに接したことのないタイプだ。


人生初の携帯ナビと格闘しながら、その一方で強烈な視線を
感じ続けている。 どんな思いで私を見ているのだろう?
おばさんの品定め? それにしても随分と露骨なんだから。


「合ってるね。 俺達」


暫くの沈黙の後で、ふいに出た悠輔のセリフが何を意味して
いるかは、すぐに察しが付いた。
けれども沈黙で得た不安定な感覚は、いたずらな言葉を
投げ掛ける。


「何が?」

「外見だよ。 俺がフケ顔で美香子が童顔だから、バランスが
取れてるなって。 一緒に歩いていて釣り合いが取れてるよ」


悠輔の方に顔を向けると、思っていた以上に近い距離で目が
合い驚いた。


「ちょっとー!見過ぎ。 そんなにジッと顔を見ながら歩いてる
人いないでしょう? もっと普通に、ね」

「何で? 今日はお互いを見るために会ってるんでしょ?
美香子のこといっぱい見たいよ」

「そうだけど・・・そんなに見られると、調子狂う。 毎瞬、毎瞬
顔が変わる人だったら、そりゃあ、目も離せないだろうけど・・・」

「あは、美香子、面白い! うん。 嬉しいんだよ。
美香子が思ってた以上に可愛くて〜」


頬擦りをするのかと思う程、悠輔の顔が近くへときた。


「ちょっ!ちょっ!! 焼肉屋さん、連れていかないわよ!」

「ごめんなさい。 ・・・美香子、可愛いよ」


まったく、そんな愛くるしいお顔でこんなと言っちゃうんだから。


「悠輔は、モテるだろうね」


ここは大人の女性らしく、穏やかに微笑んでみせた。

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