《MUMEI》
伏線博士?
「小説で皆がよくやるのが、序盤や前半に伏線を張って、後半やクライマックス、あるいはラストシーンで伏線を拾うというテクニック。これはアマチュアの作家の間でも使われている」
激村が語ると、仲田が顔を曇らせた。
「伏線ですか。何か難しそうですね」
「簡単だ」
「火剣さんは伏線得意ですか?」
「それは愚問を通り越して失礼だぞ仲田」
「火剣」激村が釘を刺す。「無意味な例にはアルゼンチンバックブリーカーしか待ってないぞ」
「うるせえ。俺様は巷では伏線博士と呼ばれているんだぞ」
「初めて聞いた」
「初めて聞きました」
激村と仲田は同時に言った。
「いきなりWドロップキックか。倒れねえぜ」
得意満面で火剣が語る。
「伏線は簡単だ。草村に兵を隠せばいいんだ」
「それは伏兵だ」
「無印馬が最後の直線、大外一気に駆け抜けて人気馬を交わす」
「それも伏兵です」
「引っ張った割には大した話ではなかったな」
激村の言葉に火剣が燃えた。
「バッファロー! 今のはほんの遊びだ。例えばターミネーターは、ジョンコナーはすべてを知ってカイルをタイムスリップさせたわけだ」
とりあえずまともな話。二人は黙って聞いた。
「そんときカイルは自分がまさかジョンの父親になるとは夢にも思わなかった」
「そうだな」
「カイルはサラに未来の話をする。サラは自分がジョンコナーという指導者になる人間を生むことを知る。しかしだ。じゃあだれが父親なのかという話に当然なるな」
「はい」
火剣は4コーナーをカーブしたサラブレッドのごとく加速した。
「だれか父親なのか。まだそのときカイルは知らない。ところがどっこい二人は結ばれてしまう。カイルはサラをベッドに押し倒し…」
「細かい描写は省いていい」
「うるせえ。二人は一夜だけ熱く燃え上がった。命を狙われているという極限状態の中での浪漫飛行だ。本気で愛し合った。十年分の愛撫をしただろう。握る手の力が抜けるシーンで絶頂をほのめかすとは、さすがはアメリカ映画だ」
「火剣も見習え」
「やかましい。しかしあれだな。タイムスリップのとき全裸っていうのは女にとっては厳しいぜ」
「はい?」
何か話がズレた気がする。
「火剣。感動を壊す話はやめろ」
「そうですよう」
咎める視線の二人を、火剣は満面笑顔で見た。
「俺様なら全裸でタイムスリップした女が絶体絶命の大ピンチに陥るシーンを挿入するね」
「伏線の話はどうした?」
「伏線より挿入の話が話題を呼ぶと思うが…NO!」
アルゼンチンバックブリーカー!
「ギブ…ギブ…」
「一度窓からダイブしないとわからないタイプか?」
しかし火剣の口は減らない。
「ダイブとタイプを掛けたか。相変わらずレベルが低いな激村…NO!」
そのままバックフリップで教室の床に叩きつける!
「だあああああ!」

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