《MUMEI》
将棋とミステリー
火剣がぼやく。
「仲田。人が思い通りに動かないと暴力で黙らせる。これが激村創という男だ。騙されてはいけません」
仲田が激村に言った。
「伏線を張るコツってありますか?」
「完全無視か仲田?」
「ミステリーなんかは、伏線が勝負になってくる」激村が穏やかに答える。「サスペンスもそうだが、これはもう頭脳戦だな。鋭い読者が『ここに繋がるのかあ!』と感嘆するような伏線をいかに用意するか」
「難しそうですね」
「感嘆だ」
「頭使いますね」
「感嘆だ」
激村と仲田は火剣を無視して授業を続けた。
「仲田君。ミステリーをたくさん読むことも大事だが、将棋も推理小説のトレーニングになる」
「将棋?」仲田が興味を持った目で聞く。
「将棋は頭のスポーツだ」
「ヘッドバット!」
「…打つ手で展開が変わる。将棋は確実に役に立つ。小説も十手先、二十手先を読んで書かなければならない頭脳戦だ」
「頭突合戦」
「テレビの将棋トーナメントは見ているだけでエキサイトできる」
「BブラジルVS大木金太郎」
「プロの試合を見ながら、自分ならどう差すかを考えるんだ。プロの作家のミステリーを読んで、自分ならこうは書かないと考えるのも良いことだと思う」
「強気ですね」仲田が笑顔で言った。
無視攻撃に耐えかねて火剣が口を挟んだ。
「小説で伏線の拾い忘れは怖いな」
「火剣。珍しくまともな意見じゃないか」
「いつもだ」火剣は激村を睨むと続けた。「鋭い読者は伏線を覚えている。で、いつ拾うかと楽しみにしていたら小説が終わってしまった。これはミスだ。女流騎士なら罰として生放送で全裸だな」
「危ないなあ」仲田が顔をしかめる。
「大丈夫だ仲田。これくらいで反則負けになったら世の中終わりだ」
火剣の勢いを止めるように激村が語った。
「あちこち伏線を張り過ぎて拾い忘れる。ありがちだな。もしも読者から『あれはどうなった?』と質問されて『しまった!』と答えられなかったらアウトだ」
「怖いですね」仲田の顔が曇る。
「思わず蒼白が顔面になるな」火剣が笑う。
激村はさらに言った。
「あと、伏線の拾い忘れだけでなく、設定に無理があり、辻褄が合わない、あるいは科学的に矛盾しているなど、指摘される箇所は少なくしたい。プロが書いた作品でも、筋が通っていない、殺人動機としてはあまりにも弱いなど、首をかしげるものがある」
「ミステリーは犯人探しがメインだ。犯人はやっぱり、えええっていうヤツじゃないとな」
火剣がまじめに参加している。激村は内心喜んていた。
「そうだな。火剣の言う通り、だれもが疑う犯人はたいがい犯人じゃない」
「ところが最近ドラマであったぜ。最終回まで散々引っ張っておいて、実は一番まともな犯人が犯人だった。そりゃないだろうとちょっと白けたな」
仲田が意見を述べる。
「でも、この人が犯人は無理があるだろうって犯人もいますよね」
「狙い過ぎは失敗するな。言われてみればずっと怪しかったという何かがないと」
火剣が力説する。
「心理学的にも読者は犯人を当てたいんだ。だから上手い作家は難しい犯人を読者が見事に当てられるようにヒントを出す。真犯人がわかったとき当たっていたら快感だからな。思わず機関銃をぶっ放したくなるぜ」
「一行余計だ」
「セーラー服とひと晩中」
「黙れ」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫