《MUMEI》
普遍性は創作の生命線
「伏線とは何も言葉だけじゃねえ」火剣が熱く語る。「顔の表情やちょっとした仕草、小物なんかで伏線を張るのもセンスだ」
「火剣さんもまじめに語れるじゃないですか」
「うるせえ」
激村が付け足す。
「ミステリーを書く場合、トリックは難しい。ミステリー好きはたくさんのミステリーを読んでいるから、そういう読者を驚かせて、しかも矛盾がないというのは並大抵なことではない」
「難しいですね」仲田が真顔で言った。「…あれ、火剣さん簡単だって言わないんですか?」
「仲田。毎回同じ技じゃセンスがねんだ。エルボー、チョップ、張り手、頭突きといろんな技を出すことが大事だ」
火剣がまじめに授業に参加しているので、激村は大切な話をした。
「よし。それでは創作の生命線である普遍性についても語り合っていきたい」
「普遍性?」
「仲田。普遍性も知らねえのか?」
「知ったかぶってないで教えてくださいよう」
仲田が口を尖らせると火剣は笑顔で答えた。
「普遍性。普遍性っていうのはなあ。何だ激村?」
「知らないんじゃないですかあ」
「シャラップ」
「普遍性とは偏っていないということだ」激村が解説する。「自分の考えを作品に活かすことは大事だ。しかしもっと大事なことは、そのメッセージがあまりにも偏っているのは良くないということだ」
「なるほど」仲田がノートにペンを走らせる。
激村の説明で意味を理解した火剣が割って入った。
「例えば戦争は必要悪とか、暴力はときには必要とか、殺人事件は全部死刑にするべきとか。これは普遍的でないということだ」
「全くその通りだ」激村が感心した。
「凄いじゃないですか火剣さん」
「あたぼーよ」
威張る火剣。激村は話を続けた。
「プロの作家の中にも危険思想を自作に溶け込ませて世に出す輩がいる」
「輩。激しい表現だな。さすがは暴力主義者だ」
「何か言ったか?」激村が氷の目で聞く。
「独り言だ。続けろ」
「小説は居酒屋の雑談とは違う。自分が語る言葉。放つメッセージには責任を持たなくてはいけない。インターネットは公の場だ。公開する以上素人だからは許されない」
仲田は真剣な表情で聞いていた。
「自分が世に問うテーマ。メッセージが普遍的であるかどうか。一番間違いないのは、ユゴーやガンジークラスの世界的偉人が語っていたことなら、安心して出せる」
「オリジナルはいけねえのか?」火剣が真顔で聞いた。
「小説は大説を語らずと言った文豪がいるが、なるほど納得だ。世に出したあと、あれは間違ってましたという無責任な作家はプロ失格だと思う」
「俺様はオリジナルで勝負するぞ。強気なヒロインも手足を拘束されるとたちまち弱気になるんだ。その微妙な心理は面しれえ」
「続きは居酒屋で聞く」
「卑猥な話がしたいなら夜まで待ってくださいよう」
「またWドロップキックか。卑怯な。テメーらは性の悩みを抱えている思春期の少年少女たちを無視するんだな。私っておかしいのかしらんと悩める少女たちを置き去りにして何が作家だ?」
「貴様は口から生まれた桃太郎か?」激村が呆れ顔で言った。

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