《MUMEI》
良書と悪書
「普遍的でない偏ってる作家は多いな」火剣が言った。「激村は大丈夫か?」
「もちろん気をつけている。ツイッターでも極論は読んでいて嫌な気持ちにさせられるな」
「普遍性は大事なんですね」
「普遍性を磨くのは、やはり良書をたくさん読むことだと思う。古今東西のあらゆる名作を読み、血肉にしていくと、自然と普遍性が養われていく」
「良書と悪書の区別は難しいな」火剣がまくる。「官能小説にも良書はあるし、哲学書の中にも悪書がある」
激村が拾った。
「火剣の言う通り、書店には悪書がたくさん並べられている。それを悪書と見抜くのは難しい。売れれば何でもいいという考えの人間はゴマンといるからな」
「5万人しかいないのか?」
「ゴマンとはそういう意味ではない」
激村は火剣を睨むと 続けた。
「言論の自由を隠れ蓑に、言葉の暴力は野放し状態だ。実際に人の心を蝕む悪書はある」
「はい」仲田が真剣な顔で聞いた。
「ある意味、良書対悪書の対決とも言える。人々に勇気と希望を贈る良書が勝つか。人々の心を蝕む悪書が勝つか。悪書がはびこり、良書が書店から消えれば、良識は消滅し、社会は乱れる」
激村の大技連発に怯むことなく、火剣が言った。
「ビジネスマンと商人を失業させる気か?」
「何の話をしている?」激村の目が光った。
「売ることへの罪悪感はマイナスだ。それに良書が売れる世の中ならみんな良書を書くだろう?」
「社会を変革するのも作家の仕事だ」
「キレイごとのようにも聞こえるが」火剣が絡む。
「人にものを語る職業を簡単に考えてはいけないと思う。学ばない作家は怖い。自分が今、社会に公開しようとしていることは、本当に間違っていないか。偏っていないか。それを常に自問自答している作家はまだ安心だ」
「どうすれば普遍性を保てますかね?」仲田が真顔で聞いた。
「簡単だ。怪しい動画をたくさん見ることだ」
「黙れ。やはりユゴーやトルストイ。ガンジーやキングのような世界的偉人の考えを学び、自分の考えと照らし合わせていく作業は、大横綱とのぶつかり稽古のようなもので、力がつく。また慢心を防げる」
「ぶつかり稽古で満身創痍になったらどうするんだ?」
激村が火剣に歩み寄る。
「かき回して楽しいか?」
「無抵抗なのをいいことに、憎き敵に容赦なくかき回されてしまうのは誇り高きヒロインには残酷だぞ…」
ダイナマイトキック!
「NO!」
仲田は首を左右に振ると、ノートに書いた。
「ワンパターンのオチは良くない」

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