《MUMEI》
私の影(4月21日更新)
「私は幽霊だから・・榎原になんにもできないよ」
「びっくりした?俺が弱音吐くなんて」
「びっくりしたよ。いつものナルシストはどこにいったの?」
「だよな・・、どうかしてる・・」
「幽霊見える時点でどうかしてるよ」
と私は笑った。
「お前がいなくて今までやらせた仕事がどれくらい大変だったか分かったよ・・」
「わかったなら、もういいよ」
「ごめん・・」
「うん・・私も榎原にはなしたいの」
「いいよ」
「私、ママと妹に私の気持ちを伝えたいのっ」
「声・・」
「そう・・私には声がない。しゃべれないの・・榎原しか聞こえない」
「何で・・俺なんだろうな」
「分からない」


「俺は・・何をしたらいい?」
「私・・・・手紙を書きたいの・・」
「うん。分かった。でも、物って触れるの?」
「平気。物は平気。人はダメなんだ。意外でしょ」
「そうか。だったら手紙買おう」
「けど・・私・・お金持ってないよ」
「いいよ」
「でもっ・・」
「いいから・・」
 私があの日、事故にあった交差点の近くのコンビニとは違うコンビニにいった。
「ありがとう」
 私が思い出して辛くならないようにしてくれたんだ・・。
 可愛い便箋と封筒を買った。
 コンビニから出ると、私の家とは真逆に榎原は歩き始めた。
「どこいくの?」
「俺の家、来いよ」
「えっ」
「自分の家じゃ、書きにくいだろ・・いくら見えなくたって・・」
 その後、榎原は何も言わなかった。
 きっと「辛くなるだろう」と言うつもりだったんだろう。
「俺の家来いよ」
「えっ、ごめん」
ぽつりと音がして、すぐに強い雨が降ってきた。
「雨…」
私が言った。
 すると、さりげなく制服のブレザーを脱いで私の頭を覆ってくれた。
こんなに優しい人だったんだ。
かすかに残る榎原の温もりが耳から伝わって、体に、心に希望をくれたんだ。
あったかい―。
初めて君が教えてくれた言葉は…「希望」でした―。 

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