《MUMEI》
「殺すなかれ」は黄金律
「映画もドラマも小説もマンガも、あまりにも簡単に人が死に過ぎると思う」
激村に同意しながら仲田も言った。
「幼少の頃から殺人シーンを見せるのは、心に悪影響を与えると聞いたことがあります」
「それは心理学者を始め多くの人が指摘していることだ。作り手は読者や視聴者に悪影響を及ぼす作品を出さないように、今一度考えるべきだと思う」
「つまり表現の自由を侵害する話か?」
「全然違う!」激村は火剣を睨んだ。
「じゃあ、言論の自由を妨害する話か?」
「貴様はなぜそうやってかき乱す?」
火剣の目が光る。
「かき乱されるヒロインのほうが悪い」
「何の話をしている?」
「だって敵を憎む心が猛ければ、例えば手足を縛られて無抵抗の状態で弱点を責められてもよォ、毅然とした態度を取っていられるぜ」
激村は臨戦態勢。
「憎き敵に弱いところを責められて乱れるのはよォ、敵に屈服したことを肉体で認めることになるんだ…待て激村。これは文学において、NO!」
ジャイアントスイング!
「おーたーすけー!」
火剣は教室の後ろにあるロッカーまで飛んだ。
「エイドリアーン!」
激村は教壇に戻った。
「小説の中で人を殺さないというのは難しい。人だけでなく動物もできれば殺したくない」
「難しい問題ですね」
「簡単だ」
「火剣さん戻るのが早いですね」
「当たり前だのアキラよ」
「滑ってますよ」
「うるせえ」火剣は胸を張った。「俺様がいなきゃ視聴率取れねえからな」
火剣の豪語を無視して激村は続けた。
「小説の中で簡単に人を殺す。簡単に動物を殺す。よく考えてもらいたい。感受性の強い読者なら、ショックを受けるだろう」
「ショック?」仲田が聞いた。
「例えば象牙が高く売れるからとアフリカゾウを射殺する。動物愛護の気持ちが強い人なら、なぜ殺す必要があったのかと、ストーリーを追うのをやめて作者に文句を言いたい気持ちになる」
「それは困るな」火剣が真顔で言った。
「つまり興醒めしてしまうんだ。殺人の方法も残酷過ぎると興醒めしてしまう。だから何の罪もない人より、殺されても仕方ない人間を被害者にする作者は多い」
「殺されても仕方ない人間なんて一人もいないぜ」
火剣が渋い顔で言ったが、素通りして授業が進んだ。
「読者を怒らせようと無理に犯人を凶悪にし過ぎると失敗する」
「なるほど」
「なるほどじゃねえ。俺様を置き去りにするな」
「受け狙いに崇高なセリフを吐くからだ」
激村の一言に火剣が笑った。
「つまり俺様はかき乱す役でいいんだな激村?」
「今度かき回したら机の上から床にパイルドライバーだぞ」
「聞いたか仲田。殺すなかれの話をしながらの殺人未遂。この矛盾をどう受け止めればいいんだ?」
「ノーコメント」
「心配すんな仲田」火剣が笑顔で肩を叩く。「殺すなかれは黄金律。この話はまだまだ続くぞ。でもプレイ中に女が殺してえええって叫んでもホントに殺したらダメだぞ」
「それ以上喋ったら殺すぞ」

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