《MUMEI》
退けない理由
スラリと腰に下げた双剣の片方を抜き、ゆっくりと構える。
バリィィン!!
ガラスを叩き割りながら突っ込んでくる黒い人影。
リースとデュアルブレイドの間に割り込むように着地し、刀を構える。
「・・濃紺の髪、双剣・・シンギ・ノトス・・・ですか?」
構えながら確かめるように問いかける式夜。
「・・俺の名を知っているに刃を向けるのか?」
答えるシンギの声には殺気が籠められ、相対する式夜に向けられる。
「この状況では逃げられませんから。」
今にも逃げ出しそうになる足を前に一歩踏み出す。
「・・そうか。」
残念そうに呟き、間合いを詰めていくシンギ。
「逃げろ!!私など放っておけ!!街を・・」
叫ぶリースの声を無視し、夕凪に爪を纏わせ斬り掛かる式夜。
刃が打ち合わされ金属音が響く。
式夜の斬撃を片手の剣だけで容易く受け流し続けるシンギ。
「はぁ!!」
刀の速度をさらに上げ、全力で振るうが、それすら受け流される。
キィン!!
一際大きな金属音が響き、近距離で式夜とシンギの視線がぶつかる。
「・・満足したか?」
シンギが剣を振るい、式夜との間合いを離すともう一本の剣を抜き構える。
「・・・せめてもの情けだ。本気を出させてもらう。」
シンギの全身から放たれる気配が明確な殺意に変わり、式夜を打つ。
「夕凪・・牙を。」 「了解、起動完了。」
勝てない、そんなことはとっくに理解した。先ほどの短い斬り合いの中でこちらの斬撃は掠りもしていない。それでも刀を構える式夜。
「・・たとえ勝てなくても、私は・・リースさんを見捨てることはできません。」
きっぱりと言い切る式夜にリースは絶句し、ただ悲しそうに首を左右に振る。
「想いだけで一体何が護れる!!力が無ければ、自分の大切な者など・・簡単に消されていく世の中で!!」
シンギが初めて大きな声を上げる。その声には悲哀がにじみ、苦しげな声に聞こえた。
「・・漆黒の刃、砕月式夜。一命を賭して・・貴方を斬ります。」
刀を鞘に収め、居合いの構えを取り、静かに名乗りを上げる。
砕月式夜、漆黒の刃、記憶を失った自分に彩詩とハンディングが自分のために考えてくれた名を初めて、胸を張って堂々と名乗り上げる。
「デュアルブレイド、蒼の追憶者、シンギ・ノトス。朱と蒼の双剣に抱かれて散るがいい。」
返すように名乗りを上げると、構えた双剣に魔力を通す。銀色だった刀身が右の片手剣は蒼く、左の片手剣は朱く染まっていく。
狂気の深淵の造った武具の中でも最高ランクと名高い双剣、劫火と蒼海。防御魔法を焼き尽くし、物理的な障壁を水圧によって押し潰す。双剣の前には城壁も意味をなさずと言われる剣。
一瞬の間の後、式夜が雷の反発力を利用した移動術で瞬動を超す速度で移動する。
それに合わせるように、シンギが双剣を振るう。
リースの眼には式夜の姿は消えたようにしか見えなかった。
シンギが振るった左の劫火と夕凪がぶつかりようやく、式夜の姿が視える。
式夜が夕凪に籠められた魔力を爆発させ、真空の刃を発生させるが、劫火の炎が全ての真空波を燃やし尽くし夕凪が纏う風さえも焼き払う。
ソコに右の蒼海が襲う。
視えたのは、ソコまでだった。
ガシャァァン・・
式夜が吹き飛びリースを磔にしている壁に直撃するとそのまま倒れる。
「・・・ヒトの形が残っているとはな。」
式夜に向かってゆっくりと歩きながら蒼海を鞘に収めるシンギ。
夕凪は砕け、式夜の握る柄以外は、地面に散乱している。
式夜の体には傷が幾つも刻まれ、血が流れ、リースの流した血と混じり大きな血溜りができる。
「その刀のお陰・・いや、お前の実力か・・放って置いても死ぬだろうが・・」
劫火で式夜を焼き払うために魔力を通すシンギ。

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