《MUMEI》
創作も正確さが命
「今はインターネットがあるから、何かを調べたいときは非常に便利だ。わからないことがあればすぐに検索して調べられる」
激村が話している途中で火剣が口を挟んだ。
「ネットを鵜呑みにするとはまだまだ青いな」
「だれが鵜呑みにすると言った?」激村が怒る。
「僕はなるべく複数の公的サイトを見ますね。個人ブログやツイートの場合、ちょっと正確さが心配です」
「仲田。検索なんかで調べなくても俺様に聞けば即解決だ」
「はい?」
「何だ、その疑いの目は。泣かすぞ。俺様は巷で歩く辞書と呼ばれている」
「辞書で調べるのも大事だが、ニュースを確認する場合、辞書では無理だ」
「何まじめに答えてんだよ激村」火剣がなぜか怒る。「こういうときはすかさず、じゃあ火剣に何か聞いてみようっていう流れに持って行かねえとコントにならねえだろ?」
「コントなんかだれもしていない!」
「授業をしているんです、授業を!」
激村と仲田のWドロップキックにも怯むことなく、火剣が笑った。
「授業で検索か。授業とはビジネスを展開することだ」
「帰れ」
「バカだな激村。それは事業だと何で突っ込まない?」
「オレは作家だ。そんな低レベルでありきたりで、そもそも面白くない、笑えない、受けない、つまらないギャグに付き合うことなどできん」
火剣は怯んだ。
「テメー、それでもレスラーか? ダウンした相手に顔面パンチ連打からのギロチンチョーク。ヒクソンと呼ぶぞ」
「ヒクソンは誉め言葉ですよ」仲田が言った。
激村は話を元に戻した。
「とにかくあやふやな記憶のまま書くよりも、調べてから書いたほうが安全だ。デタラメを公開してしまうと信用を失う。年月日や場所。つまり両国国技館だったか、東京ドームだったか。そういうものを調べるには検索が早い」
「便利ですね」
「不便だ」火剣がぼやく。「急に動かなくなったりするしよォ」
「それはパソコンの問題だろ」
「うるせえ」
激村は火剣を無視して話を続けた。
「小説というのは全くの創作とは限らない。ユゴーの作品は実際の街並みを使うし、時代背景も本物だから凄いリアリティーで迫って来る。ストーリーは創作だが実話に見えてしまう」
仲田が感嘆しながら首を左右に振った。
「時代背景を本物として描く場合、正確さが大事になってくる。重大ニュースが起きたときはその日の新聞をとっておくといい。時が経ってその出来事が重要な意味を持つこともある。新聞をとっておけば苦労して検索しなくても済む」
「なるほど」仲田は感心しながらノートに書いた。
「龍馬伝と竜馬がゆくは微妙に違うな。同じ実話を描いている作品なのに」火剣が珍しくまじめな意見だ。
「いい質問だ。そのテーマで語り合おう」
「これをネタにコントは難しいぞ激村」
「……何か言ったか?」
「独り言だ」

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