《MUMEI》
夕闇のロッツェリオ
『A novel of Angel.』

満ち足りた世界から、少し脇に路をそれると、小さな街道が、細く長く、神父グレゴリアを導いていた。敬虔なるクリスチャンである彼は、不思議に思ったのか、街道を、真っ直ぐ、奥へと突き進んでいった。

路は、長く続いていたが、一軒、明かりの灯った、道端の酒場、パズル・バーを見つけた神父は、軒先を潜り、木製の木彫りの入った入り口の扉を、ゆっくりと開けた。

『ロッツェリオ!』

神父は、其処で、酒に溺れた、自らの息子の姿を垣間見た。というより、脇目もふらず、酒と、肴を、頬張る悪戯な息子に、


間近まで、近寄ると、小さく、声を紡いだ。

『ロッツェリオ!金は、持ってるのか!』

しかし、ロッツェリオは、父である神父を一瞥すると、身だしなみを整えて、椅子に座りなおした。

『働いてるんだ。』

神父グレゴリアは、敬虔なクリスチャンだったので、息子が、酒浸りで、働きもせず、『働いている。』という言葉に、甚く反感を覚えた。

『ロッツェリオ。酒場で働くのも、けしからんが、少しは、自嘲というものを、知れ。』

しかし、ロッツェリオは、酷く悪態をついてきた。

『神父の息子が、酒場にいたら、変かな?』



ロッツェリオは、酒場で働いていたわけでもなく、何のつもりか、オペラ作家を目指して、戯曲といわれる、モチーフを、書き続けていたのだ。しかし、胴の入った神父には、所詮、遊びごとと変わらなく映って見えた。

『親父には、解らないよ。』

神父は、肩を竦めた。しかし、何もいわず、扉を潜り、教会へと、路をかえっていった。

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