《MUMEI》
二人
その光景を見ていたリースが体をゆっくりと動かす。
体力など残っていない。戦える訳も無い、だがどうすれば良いかは知っていた。
「ぐ・・・ぁああ!!」
苦痛に声が漏れる、自分を磔にしている杭を無視し、腕を動かす。
ミチミチ・・
筋肉が裂ける嫌な音が聞こえ、血が流れる量を増やす。
それでも強引に動かし、杭から腕を引き剥がす。
式夜に覆いかぶさるように倒れこむ。
無理な動きをしたためか、斧で斬られた傷からも血が流れている。
「・・・式夜・・ありがとう・・」
今まで解らなかった姉の気持ちがわかった、ソンナ気がする。
「・・苦痛は無い。それがせめてもの情け・・か。」
炎を纏った劫火が振りかぶられ、二人に向かって振り下ろされ・・
直前で氷の壁に阻まれる。
「・・殺さないで。」
階段を登りきった場所でレイが佇んでいた。
割れた窓から風が強く吹き込み、シンギとレイの間を抜けていく。
「・・・まさか・・お前が来るなんてな。」
諦めたような表情を浮かべシンギが劫火を鞘に収める。
「そうね、私も貴方とは気がつかなかった。」
静かにシンギとの距離を詰める。
「・・・なぜ、止める。」
「私が・・今でもフィリアス教に居る理由は、彩詩やエミが居るから。」
1メートルほどの距離を開けて立ち止まる。
「私は・・貴方があの二人と殺しあう姿を見たくは無いの。」
表情を動かさずに淡々と言葉を続けるレイ。
「・・・・どうしてだ、お前をそんな体にしたのは・・」
わからないと言うように問いかけるシンギ。
「・・教会を憎んではいるわ。けれど・・彩詩やエミは私をヒトとして扱ってくれたわ。貴方の側以外に、私は・・居場所を見つけてしまった。赦してくれとは言わない、だけど・・」
式夜とリースの前で座り、即座に二人の出血を凍らせることによって止める。
「・・・お前の考えはわかった。だが・・俺には・・」
シンギはレイに背を向け、悲しげに言葉を紡ぐ。
「変わらないわね、貴方は。」
微笑を浮かべながらシンギを見るレイ。
「・・・変われないだけだ、お前が死んだ事から眼を逸らし続けて・・今のお前を見ていないからな。」
「・・この二人を殺さないでくれてありがとう。」
小さく頭を下げるレイ。
その言葉を背に受けながら、ゆっくりと割れた窓へと向かうシンギ。
「・・・恋人の頼みだからな。」
「・・シンギ、ありがとう。」
階段を駆け上がってくる足音。
その音にシンギがレイの顔を見る。応じるように頷くレイ。
「・・・今度会うときは、敵同士だろうな。」
「・・そうね。」
レイの答えに苦笑を浮かべるとシンギは窓から飛び降りた。
階段を駆け上る足音が段々近くなってくる。

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