《MUMEI》 淡い残像「美香子〜、今日俺疲れて死にそうでぇ〜、 緊急事態だからさ・・・ 明日も頑張れるようにお願いがあるの! お願い、聞いてくれる? ・・・「悠輔愛してる」って言って。 棒読みのセリフでいいから。 お願い。 ね?」 ある時、携帯越しに聴いた声。 「きっといつか美香子は俺に言うようになるから。 練習だと思って言ってみよ?」 あの時もなんだかんだ言いながら、リクエストに応えていたっけ。 完全なる棒読みで・・・。 「ね? お願い!」 ムチャ振りばかりだったわよね・・・。 まったく・・・ 私の名を呼ぶ声が、まるで隣に居るかのようなタイミングで 頭の中、リピートされた。 「美香子?」 「悠輔・・・」 部屋には、静かなヒーリング音楽が流れている。 胸の奥の、じりじりとした感覚に涙がこぼれた。 「あいしてる」 一人、封印する必要をなくした芽生えたての感情を 音にした。 37年間生きてきて、私は全く成長をしていないのか? 深い溜息をつきながら、携帯へと目が行く。 悠輔とのやり取りで、着信の確認が癖になってしまった。 多分今はまだ、癖と期待とが入り混じっている・・・。 「これで良かったのかな? うまくいかなかったよ、私達」 涙が止まらなくなっていた。 前へ |次へ |
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