《MUMEI》 リアリティのある縛り方火剣が乗りまくる。 「格闘技の心得がある女刑事を縛るのにだぞ。手首だけ縛って両足は自由。しかも見張りなし。そういう都合がいいドラマは結構多いな」 激村と仲田が口を挟む暇がないほど、火剣は10馬身差の大爆走だ。 「刑事が自力で逃げられるためにそういう縛り方するんだ。全くリアリティに欠けるぜ。仲田。なぜ縛るんだ?」 「……」 「それは逃がさないためだ。逃がさないのが目的なら両手両足とも拘束して全裸にするのが普通だろ?」 「全裸にはしなくてもいいだろ?」激村が睨む。 「そうだな。武人の情けだ。裸は勘弁してやろう。全裸を敵に晒したらヒロイン敗北だからな」 「だから何の定義ですか?」 仲田の言葉に火剣は喜ぶと話を続けた。 「完全拘束で無抵抗だと刑事も弱気になるだろ。刑事だって人間だ。生身の体だ。痛い目には遭いたくないし、酷いことはされたくない」 「もういいだろう、その話は」 「待て激村。先を急ぐと胸キュン刑事について2時間語るぞ」 「やめろ」 「ヨーヨーが武器なんだ」 「作品が違いますよ」仲田が呆れ顔で言った。 「まあいい。あと天使と悪魔を描くときも作者の想像力が問われるな」 ようやくまともな話になったか。激村がすかさず語る。 「そうだな。だれも本物を見たことがない。だから作者の想像力と確固たる哲学と科学的に矛盾のない設定。これがSFをリアリティに描く」 「難しいですねえ」 「難しいな」 「あれ、火剣さんまた上手ひねりですか?」 「違う。激村の講義が難しいんだ」 「ほう」激村の目が寒い。 「シンプルに語ろうぜ。天使と悪魔はたいがい擬人化して描くだろ仲田?」 「はい」仲田は恐る恐る話を聞いた。 「悪魔は見るからに凶悪で冷酷なサディストだ。で、純白の衣装に身を包んだ天使は純粋可憐で清らかなヒロイン」 「…はい」 「その汚れを知らない天使がもしも卑劣な悪魔に捕まってしまって手足を縛られ…」 激村が動いた。 「無抵抗の状態で悪魔どもに囲まれたらどうなる?」 「知りません」 「仲田。俺様はヤらしい意味で言ってんじゃねえぞ。小説で大事なのはシチュエーションだ。天使も内心は『嘘、どうしよう?』と慌てふためいていても、憎き宿敵の悪魔にだけは哀願も降参もできない。その誇りの高さがヒロインの足枷になり、本音は許して欲しくても悪魔を強気な目で睨んでしまう。すると悪魔も、何だその目は?」 「はあ…」 「はあ、じゃねえ、はあじゃ。貴様が脱力するたびに天使は脱衣する。天使が裸にされたら仲田のせいだぞ」 「何のゲームだあ!」 激村が走るところを火剣がカウンターのランニングネックブリーカー! 激村が後頭部を強打してダウンしている。仲田は焦った。 「見たか仲田。世の中は正義が必ず勝つとは限らねえのよ。ガハハハ…待て激村」 激村はついにチェーンを持ち出した。 「NO!」 激村はチェーンを火剣の首にぐるぐる巻きにすると、教室中を引きずり回した。 「ダメだ」仲田は細い目で呟いた。 前へ |次へ |
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