《MUMEI》 大文豪に学ぶ手法「ユゴー、トルストイ、デュマ、ドストエフスキー、吉川英治、司馬遼太郎…」 「全部呼び捨てということは友達なのか激村?」 激村は火剣を無視して講義を進めた。 「世界の大文豪から手法や妙技を学ぶことは非常に重要です」 「よく聞いてろ仲田」 「火剣さんこそ」 「俺様は世界の名作がすべて頭の中にインプットされている。テメーらも俺様のように『歩く格言』を目指せ」 「歩くたわごとの間違いじゃないのか?」 「何だと?」 また横道にそれる。激村は深追いせずにリングに戻った。 「例えばユゴー。小説の文中でいきなり『ここに当時の新聞記事がある』と読者に語りかける。すると『え、これって実話なのか?』と一瞬焦る」 「技ですねえ」仲田は感銘した。 「ナポレオンなどは、本人は登場しないが実名が出てくる。時代背景や街並みが本物だから、そこへ『当時の新聞記事がある』と言われたら、創作が実話に思えてくる」 「強烈なリアリティを感じるな」火剣が笑う。 「現代劇でもそれは可能だ。例えば喫茶店や酒場など、本物の店を使う小説もある」 「商売繁盛」 「まさか本物とは普通思わないですよ」 「仲田。テレビで紹介されたら客が殺到して返ってマイナスってこともあるんだぞ。責任取れんのか?」 火剣の責めに仲田は困った。激村がフォローする。 「火剣の言う通り、店に断りもなしに小説に出すのは良くない。その店で飲んでいて、マスターと談笑しながらそういう話が出たなら構わないが」 「ママさんじゃダメなのか?」 「…また引きずられたいか?」 「NO!」 どうしても場外乱闘に持ち込まれそうになる。激村は気をつけた。 「とにかく、駅名も店の場所も店の名前も小説の中に出てきて、まさかと思って読者が探しに行ったら本当にあったなんて、立体的じゃないか」 「ロマンですね」 「いやマロンだ」 「…店を開けて入ってみたらマスターは作者と友人」 「ママさんと風林火山じゃ言えねえもんな」 激村と仲田は先に進んだ。 「漫画家も電話ボックス一つテキトーには描かない。写真を撮ってそれを見て描く」 「女の裸もか?」 「ほかにどういう技がありますかね?」仲田が激村に聞く。 「待て仲田。『何ですか風林火山って』と聞くのが先だろ?」 しかし激村は仲田の質問に答えた。 「ユゴーの妙技としては、同じ場面を2回繰り返して描いたことがある。追われる主人公の目線と、追う警察の目線だ」 「視点を変えれば違う場面に見えますね」 「しかも逃げる人間と追跡する人間では当然心理描写も違う」 火剣が強引に割って入る。 「犯す男と犯される女で2回繰り返すのも手だな。心理描写も真逆だろ?」 「貴様は真っ逆さまに校庭にダイブしたいか?」 「また殺人未遂か激村。殺人シーンはアリで性はNGという世の中の基準がわからないぜ」 「火剣さんを基準にするよりはマシだと思います」と仲田がスモールパッケージホールド。 カウントスリー入った。 前へ |次へ |
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