《MUMEI》

田中を保健室のベッドへ寝かせると、生田先生は脈や呼吸を一通り確認する。


「とりあえず、木の枝で多少はかすり傷出来ているみたいだけど、大きな傷は無いみたいだし、脈も呼吸も異常は無し。あとは、目を覚ますのを待つしかないわね。」


「…ありがとうございます。」

「あなたは?」

「へ?」

「山男君も、上から来たように見えたけど?怪我は?」

「あー…」


言いよどむ山男を上から下まで観察して、生田先生は大きくため息をつく。


「ま、田中君かついでここまで来ているし、大丈夫なんでしょう。」

「…はい」

「理由言いたくないのかも知れないけどね?一応私だってここの教師よ。変な遊びして生徒死なれちゃ困るのよ。この上は1年生の教室でしょ。2年生のあなた達がなんでそんな所にいたの。」

「いや、俺たちは3…」


そこまで言って、山男はふと、善彦の事を思い出す。

田中がなぜ、空中に浮いていて、落下する事態に陥ったのか、聞きたいのはむしろ山男の方だった。

善彦の元に戻らなければならない。


「…さん??まさかとは思うけど、3階の2年生の教室から降りてきたなんて言わないわよね…」


途中で言葉を句切った山男に再び怪訝な顔をした生田先生。

しかし、それに山男は大きくお辞儀をして扉へ向かう。


「先生!ダイチャンお願いします!俺、戻らなきゃ!」

「ちょ、ちょっと!?」

「戻ってきますから!」


そこまで言って、後は生田先生の言葉を待たずに階段へ向かって走り出した。

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