《MUMEI》 飽くなき『面白い!』の追求「これでひと通りのことを語りました。今まで語り合ってきたことをヒントにして、自分の得意技を磨き、専門性を高め、エキサイティングな作品を書いて欲しいと思います」 激村創が静かに語ると、火剣獣三郎は感慨深く言った。 「もう終わりか。寂しくなるな。仰げば尊しを歌うか?」 「いいですよ、そういうのは」仲田が赤い顔で遮る。 「くれーなずむ…」 「歌が違ってますよ」 「そつぎょーだけが、理由でしょーかー…」 「それも違います」 「歌うということは何も学んでいなかったってことだな」 「田舎をバカにするな激村」 「もういい」 「最後くらいドロップキックのオチはやめましょうよ」 仲田がまともな意見。それを受けて激村が熱く語る。 「この社会には答えが出ない難問が山積しています。庶民の声は雑音でかき消され、世の中にはなかなか届きません。国民の声を反映させるのが政治家の役目ですが、自分が防波堤となって民衆の命を、生活を死守しようという大情熱を持った政治家が、果たして何人いるでしょうか」 「……」 「だからこそ作家がもっと力をつけて、民衆を守り、民衆に勇気と希望と安心を贈る灯台になっていきたい。それが文学者の使命であり、ペンを握る人間の責務だと自負しています」 「……」 「本来、ものを書くというのは、人々の苦しみを抜き、楽を与える真剣勝負です。言葉の力を信じ、励ましと喜びを贈りたい。それを大前提に、だからこそ面白いストーリーを創作したい。どこまでも『面白い!』を追求していきたい。面白くなければ人は読まない。どうしたら面白くなるか。飽くなき創意工夫の連続闘争です」 「面白いというのは武器だな」火剣がつくづく語った。「小説もマンガも映画もドラマもスピーチも、面白くなきゃその先にあるメッセージには辿り着かねえ」 「凄いじゃないですか火剣さん」 「バッファロー。俺様の悪ノリは世を欺く仮の姿だ。ヒールがいるからプロレスは発展した。このエンターテインメントの原理は小説でも同じだ。それを見抜けないで本気で不謹慎と考えるたあ、まだまだ青いな」 「言い過ぎですよ」仲田が怒る。 「全然言い過ぎじゃねえ。読者をエキサイトさせるストーリー。エキサイトさせるキャラ。エキサイトさせるメッセージ。エキサイトしてこそエンターテインメントだ!」 「火剣」 「何だ激村?」 「ストレスたまらないだろ?」 「だれがストロング金剛や」 「言ってない」 「失敬な」 「どっちに?」 変わらないやりとりを仲田が呆れ顔で見ていた。 「最終回は難しい」激村が言った。「ラストシーンを見事に決めるのは本当に難しいんだ」 「簡単だ」 「じゃあやってみろ火剣」 「フランスっちゅーねん」 「何?」激村が顔をしかめて聞く。 「フランスっちゅーねん」 「…わからない」 「頭悪いな激村。フランスっちゅーねん。仏っちゅーねん。ほっとけっちゅーねん」 激村は片手を頭に当てた。 「これほどバスすラストも珍しいですね」仲田も脱力の目で言った。 「何だとテメーら。俺様のギャグが気が入らねえならなあ、一線を超えるぞ」 「ダメです」 「敵の手に落ちた女スパイ。全裸にされて手足を大の字に拘束され全身にバターを塗られ、まさかとは思ったが扉が開いたらそこには巨大な犬。『それだけはやめて!』彼女の哀願も虚しく犬が激走…」 ドロップキック! 「のおおおおおおお!」 仲田は静かに首を左右に振ると、ノートを閉じた。 END 前へ |
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