《MUMEI》 アラタの片目が樹の体を貫く。視線で殺されそうだ。 「それで、少しでも気が休まるなら構わない。 憎む対象が俺になって、その苦しみが分散されるなら全部引き渡す。」 樹は布団の上でアラタの手首らしい位置を指で象る。 「お前は俺のものだね」 アラタはコマ送りで見るような静かな瞬きをした。 樹は微かにアラタが瞳の奥で笑った気がした。この人形が負の感情以外で人間味を帯びたのを目撃した瞬間だった。 布団から体を離す、激情に流されては何を仕出かすか知れたものではない。 帰ろうと席を離れた。 アラタのゴム手袋で覆われた指が樹の腕に食い込む。 「無断で帰るな。 全然、意識が低い。 俺のものだっていう証拠を頂戴。」 「―――――証拠?」 アラタはカッターを出す。護身用なのだろうと納得して樹は渡された刃物に映る自分を眺めた。 「切り取って」 アラタは口元を上げた。 背筋が凍る程落ち着いた言い回しだった。 「俺が自分で、自分を?」 「解ることを口に出すのは愚問愚答の繰り返しだな。 カッターで切り取るなんて馬鹿でも出来る。 まさか、それも出来ないのに俺に関わったのか?」 アラタはいつにも増して凄みの効いた命令口調だ。追い詰めるのは彼なりの娯楽なのかもしれない。 「…………何処を御所望ですか」 カッターの曇り加減が樹の今の不安を表している。 「突起してる一部がいい。それだったら見えない場所だって許そう。」 アラタの視線が自分の下半身に下りて樹は総毛立つ。 「足の…………指?」 樹は視線が左爪先へと向いていることを察知した。 「……… クッ…… 」 いざ刃を向けてみると抵抗があり身が畏縮した。それでも小指の付け根からは出血している。 「終わらないよいつまで経っても。」 アラタは樹の腿を枕に起きている惨事を見守る。(しかしそれは好奇心かは定かでない) 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |