《MUMEI》

「…見なくてもいいだろ」
「ぁ…あぁそうだよな」

言われた通り寝室を出て扉を閉めると、なんとなく散らかっていた部屋の中を片付けていった。

(でも、見るな…と言われてもね)

あんな綺麗な奴が脱ぐ姿なんて、男だって目を奪われると思うけどな…。


「こんなの着たのは初めてだ…」
「だろうね、似合ってねぇなぁ〜」

部屋から出てきた巽はその綺麗な外見には似つかわしく無いスウェット姿に戸惑っていたが、こっちにしてみれば逆にそれが新鮮で可愛らしく見えた。

「部屋で休んでればいいのによぉ」
「家に帰るのが遅れると連絡したいんだが…」
「あぁ、電話な」

巽は律儀に家に電話をかけると言ってきたので、玄関の辺りに置きっぱなしになっていた巽の鞄を渡してやった。

「どうしたんだよ?」

受け取らない巽を不思議に思ってそう尋ねてみると、訝しげな顔をして『違う…』と言ってきた。

「何だ?携帯も持ってないのかよ〜」
「あんな面倒なもの持ってるワケ無いだろ…」

そう言いながら巽が部屋の中をキョロキョロと見渡して『ところで、電話は?』と聞いてきた。

「あぁ、俺ん家固定電話なら無ぇけど」
「何なんだそれは…」

わざわざ一人暮らしの家に固定電話引くワケは無いので巽にいつも使っている俺の携帯を渡すと、何だか納得がいかないような顔で俺から携帯を受け取っていた。

「なぁ、どうせなら泊まってけばいいんじゃねぇの?」

ふと、実家に電話をかけようとしていた巽の腕を掴んで止めると、泊まってくように提案してみた。

どうせ暇な一人暮らしだし、それに…よくあばベッドに持ち込めるかもしれないワケだし。

巽は驚いたような表情で俺を見ていたが、日も暮れた外の様子を見て観念したのかその提案を受け入れて実家に電話を掛けていた。

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