《MUMEI》 ギィイイ 扉が開く。保険室の教員が戻って来た。 樹は慌てて脱いだ靴をアラタのベッド下に蹴る。 一方血まみれの左足はアラタがカッターと共に布団の中へ滑り込ませた。 樹は布団を被ったアラタの上に上半身だけ乗る。左足が入っている事実が隠れる角度で突っ伏した。 「やだ、今までサボってたの……?」 教員が樹を揺すった。 「……ン………ッ 」 「間抜けな声出して、お早う。起きて早く授業行きなさい!」 間抜けな声と言われ樹は羞恥心にかられた。 それは先刻からアラタが布団の中で指の血を吸っているせいだ。アラタの舌が傷口に這う感触が脳に直接快感を与える。 教員が死角に入ったのを確認して足を素早く靴を履こうとしたのだが、アラタが足を離さず傷口を噛むので、切り口の薄皮が微量に取れた。おそらく樹の肉はアラタの胃袋に納められたであろう。 「…………………ッ!」 樹は声にならない声となり、反射的に震えた。 「感染症になったら最悪」 アラタは噛んだことを悪びれる様子もなく、飄々と言い放つ。口の端を拭う様は吸血鬼を連想させた。 樹は指を切り取られ(食われ)たのである。 前へ |次へ |
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