《MUMEI》 激震その日、あまりにも事態は急変した。 日本全体が悪夢に包まれた日。 TVではヘルメットを被ったキャスターがニュースを伝え、状況を 伝えるモニターは悲鳴と崩壊の旋律に包まれている。 日本は未だかつてない大震災に見舞われた。 私はこの日たまたま有給消化が目的の、特に理由のないお休み を取っていて、掃除や洗濯をしつつ余暇を楽しんでいた。 旧友と久し振りに電話で語り合う予定もあって、ちょうどその電話 を切ろうとした矢先だった。 最初に気付いたのは友人だった。 数年前に茨城へ引っ越し、中々会う機会がなくなっていた学生時代 からの女友達。 「・・・あれ? 何か揺れてない? 地震?」 「そう? 東京は揺れていないけど?」 「美香、ちょっとこれ洒落にならない! キャァッ!! 嘘!?」 「え!大丈夫? わっっ!? こっちも来た! 何!?? ・・・・・」 想像を絶する横揺れだった。 私は自宅のマンションの1室で、通常なら動くはずも無い大き目の コンポに手を伸ばしていた。 その横にある大きなスピーカーも、振動と共に前方へ移動してくる。 「大丈夫!? ほんと・・・凄い。 一旦切るわよ? もしもし?」 友人からの応答は無かった。 「もしもし? どうしたの?? 大丈夫!!??」 無音の受話器から ツー・ツー・・という音がもれ始めた。 私は受話器を置いて棚の上にある、壊れ物を下に置いていった。 よろけながら・・・あちこちから物が落ちていく音が響いている。 話しながら飲んでいたコーヒーが落ち、絨毯に飛び散った。 一口しか飲まずにいたコーヒーは、足元いっぱいに広がって 移動の度に、靴下を違和感でいっぱいにした。 ありえない・・・・ 落ちる筈のないものが落ちくる・・・・ 気丈にも次々と壊れ物を下に降ろしていったが、通常では考え られない長い大揺れに、途中から腰が抜けたようにへたり込んで しまった。 体の芯から湧き上がる震えは、自分の無力さを越えて、覚悟へ と変わろうとしていた。 瞬きも出来ないほどの緊迫した時間・・・・ それは治まったか?と思うと、容赦なく覚悟を呼び覚ます余震 を繰り返す。 しかしそれも、段々と小さなものへと変わっていった。 友人に電話とメールを送ったが、どちらも通じない。 携帯が一切使えないようだ。 「悠輔は? 悠輔は大丈夫かしら??」 前へ |次へ |
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