《MUMEI》
―2―
「ウソおっしゃい! どーせ榊部長の入り知恵で、私を迎えに来たんでしょ!」

「正確にはボクと部長の考えでね。何せ今日が特別な日なのに、キミや九曜くんったら逃げようと思っているんだもん」

そう言って邪気の無さそうな笑みを浮かべる依琉を見て、神無月は涙目で彼から顔を背けた。

「また<視>たのね!」

「失礼な。勝手に<視>えたんだよ。そのぐらい、キミ達が強く考えていたってことさ」

困り顔で肩を竦める依琉。

「わっ私は行くつもりでしたっ! それより九曜の方は大丈夫なの?」

「まあキミの方は保険ってカンジだからね。問題の九曜くんは雛が迎えに行ったよ」

「ひっ雛が?」

「うん。だからボクが迎えに来て良かったでしょ? 雛だったら、絶対有無を言わさず連れて来ただろうしね」

その意見には納得するしかない。

仕方なくカバンを持ち直し、階段の裏から出た。

「…もう逃げようなんて考えないから、おとなしく部室に行きましょ。もう部長は来ているんでしょう?」

「OK。その言葉は真実だから、行こうか」

と言った依琉の言葉に、神無月は渋い顔になった。

「…嫌味言わないでよ。おとなしく行くって言っているんだから」

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