《MUMEI》
-4-
「いや、今日はもういい。一段落ついたし、しばらく休むといい」

「…はい」

本当に役立たずです、わたしは…。

先輩の手には冷たいタオルが握られていました。きっとわたしの顔を拭いてくれたんでしょう。

申し訳なくて、わたしは上半身だけ起こしました。

「あっあの、先輩はもう戻っていただいてかまいませんよ? ご迷惑はもうおかけしませんから」

「迷惑だなんて思っていないよ。逆に役得だったから」

そう言って笑われても、わたしにはサッパリ意味が…。

「ちょうど聞きたいこともあったしね」

「聞きたいこと?」

「そう。以前、生徒会室で居眠りしているところ、見られちゃっただろう? その時、オレ、本当に何も言ってなかった?」

そう聞く先輩の目は…笑っていませんでした。

顔は笑っているのに…。

だからか、身の危険を感じて、わたしは白状することにしました。

「すっすみません。本当は聞いちゃいました」

「うん。オレ何て言ってた?」

「すっ『好きだ』って…」

思わずわたしの顔が赤くなっちゃいます…。

「そっか。やっぱり言ってたか」

先輩はため息をつくと、真っ直ぐにわたしを見ました。

「その言葉を聞いて、キミはどう思った?」

「どうって…」

胸が痛くなりました。先輩に好きな人がいるなんて、今まで考えていなかったから…。

「…先輩が好きになった人が、とても…羨ましく思いました」

「羨ましい? 何で?」

「何でって…。そう、思っただけですから!」

そう言って、わたしは先輩から顔をそむけました。

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