《MUMEI》

今回の森でゴムボール争奪戦は都合よいものだ。
あわよくば、目障りな明石達を事故で葬れる。

そうすれば氷室様は独り占め……。

まずは、一人目の楠を排除した。
野犬にでも食われてしまえばいいさ!


明石が出て来るまで叢に隠れている。
先には川があるので、首をロープで締めてから流してまえば確実だろう、明石は谷底を覗いていた。
落としてしまいたい落としてしまいたい落としてしまいたい…

「し、志雄君!」

気付かれてしまった。

「やあ、明石。大丈夫?さっき野犬が出たみたいでさ……無事でなによりだ。
そうそう、野犬は水が嫌いだから川沿いに歩くと安全だよ、だから此処を下りるといいんだ。」

「わあ、有難う志雄君!わあ、優しいね本当に。」

ちょろいな。



「千守さんどうして此処に!」

順調に進んでいたのに妨害が入る、氷室千守だ。

「兄さんのこの土地はいずれ自分のところに返ってくるからね、視察だよ。ほら、あの旧屋敷から一帯は元は自分の住まいだったからさ。」


「氷室様に負けたからだろ、当然の報いじゃないか。それに、あの屋敷に何の価値が?」

さっさと帰れ、計画の邪魔だ。


「……渡部志雄だっけ。俺達の問題に手を出さないでくれないかな。屋敷にはね、幽霊が棲んでるんだ……それが欲しい。」

「幽霊なんていないよ、馬鹿じゃない?負け犬の遠吠えだね。」

氷室様に負けた餓鬼がしゃしゃり出るな。


「ふ、兄さんの膝を床に付かせるのも時間の問題だ。」


「口で言うのは無料だからね。」


「千守さんも志雄君も仲良くしよう……」



「タマ、黙ってくれないと嫌なことしちゃうよ?」

氷室千守がライターをカチカチ鳴らす。
火責めか…?炙るのか、焼き鐺か?

「全く、嫌なことなんてたかが知れてるんだからねっ!俺の体が許しても心はいつでも氷室様に捧げているんだからな!」

これは、服従ではない!何故なら心は屈服しないからだ。


「この俺をいらつかせるとどうなっても知らないよ。俺って、執念深いからね。」

踵の厚い靴で俺を踏み付けられても氷室様のあね冷徹さに比べたらまだまだだ……ああん。


「やめたげてください!志雄君が痛がってます!」

泣きわめく明石の方が五月蝿い。


「もう、タマったら……その可愛いお口を爛れさせちゃうよ?」

明石を引き寄せ、手の甲にキスしたりいちいちやることか気障だ。


「ま、間に合ってます!」

明石はすぐ顔に出すからイライラする。


「……まあ、いずれは全部俺が手に入れるわけだからね。」

意味深に笑う餓鬼だ。
というより、明石が逃げてしまうじゃないか!これを逃したらいつあいつを仕留められるか!
ええい、こうなれば一か八かだ!


「隙有り!」

踏まれた顔面を無理矢理に引っぺがし、明石へと突進する。

明石よさようなら、氷室様とこれからは幸せに下僕ライフを送ります!

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