《MUMEI》

買ってやる、と相も変わらず無感情な声の刀弥
思わず刀弥へと向いて直ってみれば
不自然に逸らしているその横顔が、耳まで真っ赤になている事に豊原は気が付いた
「……じゃ、これ」
遠慮がちに選んでみれば、刀弥がソレに見合った金額を店主へ
豊原とのやり取りの一部始終を見られていたことが恥ずかしいのか
足早にその場を後に
「……次は、何所に行きたい?」
脚早に歩きながら問うてくる刀弥
この世界に詳しくない豊原は返答に困り、考えこむ
暫く目的地も決めないまま歩いていると
不意に、豊原の腹の虫が盛大に鳴り響いていた
「――!」
その音を聞かれてはいないかと、刀弥の方を見やれば
気付いていないのか、前を見据えたまま
ホッと肩を撫で下ろしたと同時、刀弥がとある店の前で脚を止めた
ソコは茶屋で
思わず刀弥の方を振り返ってみれば
「……俺も、腹が減った、から」
それだけを呟き、表に据えてあった長椅子へと腰を据える
その横へ、豊原も腰を下ろし
刀弥が頼んだらしい団子と抹茶でほっと一息、肩を撫で下ろしていた
「美味し」
一口食べ、程良い甘さに顔を綻ばせた
次の瞬間
刀弥が徐に懐へと手を忍ばせ、そこからクナイを取って出す
一体どうしたというのか
様子を伺って見れば
その豊原の顔の横を、唐突何かが掠めながら飛んで行った
「!?」
ソレに気付いたらしい刀弥が出したばかりのクナイで払い落す
球体の様な何か地面に落ちたとほぼ同時に
その球体が弾け、辺り一面を白い煙に覆われた
「な、何、これ!?」
突然のソレに豊原は動揺し、悪い視界の中刀弥を捜す
目の前に現れた人影に手を伸ばして見ればその手が取られて
刀弥かと安堵に肩を撫でおろせば
「お前自ら俺の手を取ってくれるとはな」
刀弥ではない別の声が聞こえてきた
聞き覚えのある、だが有り難くはないその声に手を離そうとするが
却って強く握りこまれてしまう
「は、離して……」
「何故?」
「アンタ、何か、恐い、から。離してよ!」
懸命に逃れようと試みながら、傍らで豊原は刀弥の姿を捜す
白の中、その背を見つけ、相手の手を何とか振り解くと刀弥の後へ
「……やはり、邪魔だな」
仕方がない、と溜息をつき相手は徐に指笛を吹いた
辺り一面にその音が響き渡ったかと思えば
黒装束を身に纏った集団が唐突に現れる
「お前達、その男を殺せ。女の方には傷を付けるなよ」
言葉の終わりと同時に
黒装束達が一斉に刀弥へと獲物を差し向ける
「刀弥!!」
多勢に無勢
当然部が悪いのは刀弥で
どうすればいいのか、だが何も出来ずに立ち尽くしていると
「……俺と来い。華巫女」
目の前にその姿が現れて
咄嗟に逃げる事も出来ず、豊原の身体は肩へと軽々抱え上げられてしまう
「刀弥ぁ!」
「華巫女様!?」
互いに互いの声が届いた時には既に遅く
豊原は成す術なく、そのまま連れ去られてしまったのだった……

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