《MUMEI》

ユウゴの声が聞こえたのか、男はこちらに向かって歩いて来る。
ユウゴは織田とケンイチに目をやった。
相手は一人。
武器も金属バットだけのようだ。
なんとかなるだろう。
そのユウゴの意思を読み取ったのかケンイチがニヤリと笑みを浮かべた。
織田は無表情のままだったが、意思は伝わっているはずだ。
ユウゴは飛び出すタイミング見計らうため二人に向かって右手を上げる。
カラカラと耳障りな甲高い音が近づいてくる。
ユウゴは車の下から男の位置を探った。
あと少し、あと少し。
充分に引きつけた方がいい。
はやる気持ちを抑えながら男が近づくのを待つ。
そうしてユウゴは素早く右手を振った。
「よっしゃあ!」
ケンイチが声をあげ、威勢よく飛び出していくと、男が慌てたように数歩下がった。
ユウゴも車の後ろから飛び出し、男に体当たりをする。
不意打ちに男はバットを振り上げたものの間に合わず、後ろに倒れ込む。
すかさず、その腹部をケンイチが踏みつけた。
男は悲鳴を上げて横に転がる。
ケンイチは執拗に男を蹴りつづけた。
「おい、殺すなよ。そいつに聞きたいことあるんだから」
ユウゴが声をかけるとケンイチは楽しそうな笑顔をこちらに向けて答えた。
「わかった!死なない程度に蹴り殺す!」
意味がわからない言葉にユウゴは苦笑する。
しかし次の瞬間、ケンイチの顔から笑顔が消えていた。

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