《MUMEI》
イノシンさん
 あいつは突進することしか、知らない。ただ真っ直ぐに、突き進むことしか、知らない。

 出会ったのは学生の頃。
 喧嘩は強いが群れは作らない。常に自由で己に忠実。その癖、一匹狼と呼ばれるほど冷酷では無い、普通に友達を作れる奴だった。

 たぶん、そこが良かったのだと思う。だから、好きになった。けれどあいつのやり方は、社会に出た途端、弾き出される事になる。

 考えてみれば当然の結果だった。否、考えなくても解っていて当然の事だった。若すぎて見えなかった。そうとしか言えない。

 うまく行かないストレスの矛先は、アルコールになった。加えて喧嘩早い挙げ句にそこそこ強いので、必然的に騒動を起こすことになる。夕食時に警察から電話が来る。夜半過ぎに病院から連絡が入る。お財布だけを抱えて私は駆け付ける。そんな事も一度や二度じゃない。

 騒動を起こせば当然、会社にも連絡が行く。性格に問題のある奴を、のんきに雇ってくれる企業など在る訳がない。

 だからまた、アルコールに逃げる。そして同じ騒動を起こす。結局、そんな繰り返し。これを悪循環と呼ぶ意外に、何か言い方があるのだろうか。

 罵り合いの最後に、何度部屋を飛び出しただろう。何度あいつを叩き出しただろう。なのに何で、私はこいつと一緒に居るんだ?

 派出所の椅子に腰掛け、あいつはまたもや酒臭い息を吐きながらふてくされている。頭を下げるのは、いつも私の役目。

 お巡りさん、私のこと奥さんて呼ぶけど、奥さんじゃ無いんです。私は。

 ねぇいつも、悪かったって謝れば、許して貰えるって、思ってるんでしょう。
 ねぇどうしてあんたは、こんな破壊的な生き方しか出来ないの。

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