《MUMEI》
開通
「さて、と」
通路を塞ぐ瓦礫の山を前に、ユウゴはため息をついた。
「まずは、手作業だ」
「……え?」
「ほら、やれよ。小さいのを退ける」
 ユキナは自分の手の平を眺め、ユウゴを見た。
ユウゴは頷いて、早くやれと促す。
そして、ユウゴ自身も金づちを床に置き、小さな瓦礫を退けていく。
 後ろでユキナは小さくため息をつき、ゆっくりユウゴの隣に座った。

 二人は無言で瓦礫を退け続ける。
やがて、大きな瓦礫が現れた。
これ一つで通路を塞いでいるようだ。

「よし、ほら。ユウゴの出番」
ユキナは手をパンパンと叩きながら立ち上がった。
「左腕を負傷しているこの俺に、このどでかい瓦礫を叩き割れと?」
ユウゴは言いながら、左腕をわざとユキナの前に突き出した。
「か弱い女の子に、このどでかい金づちが振れると思う?」
腕を組んでユキナは答える。

しばらく二人の睨み合いが続いた。

やがて、ユウゴは大きく息を吐いた。
「わかったよ。やりゃいいんだろ」
「わかればよし」
勝ったとばかりにユキナは笑みを浮かべた。

 ユウゴはもう一度、大きくため息をつくと金づちを持ち上げた。
ズッシリとした重さが傷を刺激する。
ユウゴは痛みに顔をしかめながら、それでも力を入れて金づちを振り上げた。

「せー、の……っ!!」
ドガァンと大きな音が通路に反響した。
ビリビリと腕が痺れ、同時に激痛が走る。
「…ってえ…絶対、傷口開くし」
「あとで包帯巻き直したらいいでしょ。はい、もう一回」
「……すげえ、ムカつく」
「わたしはいつもあんたにムカついてる」
「ああ、そうか……よ!」
ドガァン!
「はい、頑張って〜」
 カンに障るユキナの応援を受けながら、二度、三度と金づちを振る。
四度目の衝撃で、ようやく瓦礫は砕けた。

「……よし、後は任せた。通れるように破片を退けろ。俺は休む」
荒く息をしながらユウゴはその場に座り込んだ。
「はいはい。ご苦労さん」
 ユキナは今度は文句も言わずに破片を運んだ。
その間に、ユウゴは緩んだ包帯をきつく結び直した。

間もなくして、ようやく通路が開通した。

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