《MUMEI》
"ONSEN"Reise.”温泉”旅行。
  
「なあアキラ…一緒に旅行に行かないか?」
「今が旅行中じゃないんですか?」

ベランダに出て植物の世話をしているアキラを眺めながらリビングでネットをしていた時、ふと思いついて旅行代理店のページを検索してみた。

そうすると中々面白そうな旅館が色々出てきたんでアキラに話しかけてみたのだが、あまり乗り気では無いようだった。

「そうなんだけどな…この海の側の…鎌倉とかな」

俺がそう言うと、途端にアキラの顔が曇ったような怒ったような…微妙な表情になった。

「…どうせ行くんならもっと遠くにしませんか?」
「あ…あぁ…」

…さっきのは見間違いだったんだろうか…。

部屋に入ってきたアキラの表情はさっきとは違って明るく、俺の側まで来るとパソコンの画面を覗き込んできた。

「そうだな…」

気を取り直して彼の身体を撫でながら腰の辺りを抱き寄せると、恥ずかしがる彼を膝の上に座らせて一緒に旅行先をアレでもないコレでもないと楽しく探し回った。

「部屋食がいいですかね?それとも食堂でいいんならそっちの方が安いですけど」

日本の”旅館”というのは、欧米のホテルとは違って泊まる所で食事が出るようで、更に”温泉”という特別な風呂まで付いているんだそうだ。

アキラは小さい頃、こういう温泉旅館によく行っていたらしい。

俺は日本に住んでいた時期はあったが、日本のいわゆる”温泉旅行”というものに行った事は無かった。

日本でバカンスも無く働いていたさくらと、俺の面倒を見ながらバイトをしていたマックスでは、子供を抱えて旅行をするだなんて事は考えつかなかったんだろう。

だから記念すべき初めての日本の旅行はアキラと一緒に行きたいと思ったのだ。

…いつもと違う状況で眺めるアキラは、また格別なんだろうなぁ。

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