《MUMEI》

「わー!こんなトコ初めてだよー!」

最初、かなたは用事があって行けないという恋人の武君と一緒に居れないという事で気落ちしていたのだが、旅館に着くなりそんな事も忘れて元気なウサギのように飛び跳ねて一番喜んでいた。

「よかった、喜んで貰えて♪」

都内から電車で数時間と少し離れた郊外の温泉地、そこは観光地と言っても人で混雑しているワケでもなく、かといって寂れているワケでもない。

これぞ”日本”と言った和の風情があった。

「いい所だな」
「そうですよね、僕もココ好きなんです♪」

あの後、結局アキラが見つけてくれて予約から何から全て任せっきりになってしまった。

そこはアキラの馴染みの旅館らしく、電話で予約する際も仲の良さそうな声が聞こえてきていたが、アキラはその電話で俺の方をチラチラと横目で見ながら”海外から来た友人を案内してる…”と言っていた。

(それにしても”友人”か…確かに、男ばかりが四人…)

それだけを聞いたら妙な組み合わせに聞こえるだろうから、アキラの判断は正しかったのだろう、それに昔からの顔馴染み…らしいからな。


たどり着いた旅館は、日本の昔話に出てくるような正に”古き良き日本”というような印象だった。

そこの鬱蒼とした表側を入ると、中はまるで時代がタイムスリップしたようなモノクロームの日本家屋が目に入ってきた。

「うわぁ…///」
「うおぉ…///」

双子達もその光景に驚いたのか目をキラキラさせて、周りをキョロキョロと眺めていた。

「こっちだよ、荷物置いたら見に行こうね」
「ぅ…うん///」

アキラはそう言って興奮気味な双子達の手を取ると、仲良く玄関の中に入っていった。

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