《MUMEI》

それにしても、蒸し暑かった都会から少し電車で郊外へ出た所に、こんなにも緑が香る涼しい風が吹き抜ける神秘的な空間があるなんてな…。

小学生の頃を過ごしたドイツの実家の森の中を思い出すような、国は違うのに此処にはそんな懐かしい雰囲気があった。


アキラは出てきた旅館の人の良さそうなオーナーと談笑しながら、俺の事や双子の紹介をしてくれていたので、俺はそのオーナーにいつも通りの挨拶をすると、やっぱりこの流暢な日本語を驚かれてしまった。

初対面の日本人に挨拶をするとこの流れになるのはいつもの事なんだが、俺の後ろでは双子がクスクスと笑っていた。


チェックインを済ませ、着物を着た女性に部屋に案内されるとそこは古い日本家屋のような風情ある部屋だった。

「ベッドとか無いけど、いいかな?」
「うんうん、超いいじゃん♪ジャパニーズトラディショナルスタイルだよ!”ゴーに入ってはゴーに従え”って言うじゃん♪」
「俺も、畳の部屋とか好きだから」

双子はそう言うと部屋に荷物を下ろし、タンスの中をのぞき込んだり障子を開けたりしてはしゃぎまわっていた。

「お前達、少しは落ち着いたらどうだ…」
「は〜い♪」

俺も荷物を下ろしてゆったりと外の日本的な景色を眺めていると、突然さっきの和服を着た女性が挨拶しながら部屋に入ってきた。

「おぉ…///」
「あ、どうも浴衣ですね、克哉さんは大きいから無いかと思ったけど…」

俺は突然人が入ってきた事に驚いていたのだが、アキラは慣れた様子でその深い赤色の着物を着た女性が持ってきた浴衣を受け取ると俺に渡してきてくれた。

「あぁ…」

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