《MUMEI》
また、明日
「あんた、高校生?」
端末を受け取って、ミユウはようやくタイキの顔をまっすぐ見た。
「ああ。そっちもだろ?」
タイキがそう聞くと、なぜかミユウは嘲るように笑った。
「わたしが?まさか」
「なんで?つか何歳?」
「あんたは?」
「十八」
「じゃあ、わたしもそのくらい」
「……そのくらい?」
「そう。そのくらい」

自分の歳がわからないのだろうか。
大昔ならともかく、今は国民一人一人が確実に登録されているはずだ。

ありえない。

とすると、彼女はタイキをからかっているのだ。

間違いない。

タイキはそう納得し、あえて何も言い返さなかった。
言い返しても、彼女に口で勝てないことはすでに分かっている。

 静かに黙って座っていると、ミユウは唐突に端末を開いた。
「ねえ、この曲知ってる?」
そう言って、彼女はキーを押す。

 小さな端末のスピーカーから流れ出したのは、どこかで聞いたような、聞いたことのないような、そんな曲だった。
「これって?」
タイキは不思議そうな表情でミユウを見た。
すると彼女は悪戯っ子のような笑みを浮かべて「いいでしょ」と曲のボリュームを上げる。
「これ、ミライの新曲。明日配信開始」
「え!ミライの?」

そうだ。
この曲は昨日の夜、テレビで聞いた曲だったのだ。

「……でも、なんで持ってんの?」
配信前の曲は、当然ながら誰も手に入れることはできないのだ。
それなのに、彼女はこの曲をフルで持っている。
「盗った」
「どこから?」
「配信会社」
当然とばかりにミユウは答える。
「……えっ!それって、犯罪」
「それが?」
「いや、それがって言われても……まあ、いいか」
「いいんだ?」
「いいよ。どうでも。どうせ、まともに答えないだろうし。会った時から犯罪者だし。万引き犯」
「まあね。ていうか、あんたストーカーでオタクの割に面白いね。」
「……それ、まったくうれしくないね」
「やっぱり?」
二人は顔を見合わせて、フッと笑った。

曲が静かにフェードアウトしていった。

 曲を聞き終えたミユウは端末を収めながら「わたし、もう行かないと」と立ち上がった。
「え、そうか。あ、僕もスーパー行かないと」
「あんた、まだ若いのにストーカーでオタクでおまけにオバサンっぽいんだね。かわいそうに。じゃね」
ミユウは手を振り、歩き出そうとした。
その背中に、タイキは思わず声をかけた。
「なに?」
「いや、なんでも」
「あ、そ。じゃ、明日ね」
「え……ああ、明日」
ミユウは一瞬、笑みを浮かべると歩き去って行った。

話してみると、意外といい奴だった。
しかし、やはり性格はキツイ。
いくらかわいくても彼女にしたくはない。
それに、化粧も服も派手過ぎるし…

 勝手にそんなことを思いながら、タイキも立ち上がった。

「……今日の飯、何にしよう」

一人、そう呟きながら、スーパーへ向かった。

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