《MUMEI》
かんさつ 3
 「いい天気だな」
翌朝
早々に眼を覚ましたらしい九重が庭へと出、背伸びに身体を伸ばしていた
同時に出たあくびに涙目になりながらも
其処から見える居間の隅をふと見やれば、そこには草の寝床である植木鉢がが見えた
平穏な生活は一体何所へ
実害は無いのだがやはり何かが落ち着かない、と
ソコで熟睡するくさを九重は睨みつけてみる
「智一さん」
暫く一方的な睨めっこをしていた処に鈴の声
どうしたのか、向いて直ってやれば、鈴が傍らへと膝を折って来た
「悪い、起こしたか」
申し訳なさげな九重へ
鈴はゆっくりと首を横へ振りながら
九重へ何をしているのかを問うてくる
「……何してんだろうな。俺」
土の中へと埋まる様に眠るくさを複雑な表情で眺め見る九重
微かな風にゆられる頭の花へ、何気なく指先を触れさせてみた
それとほぼ同時に草の眼がパチリと開き
九重と視界が正面から重なる
「……我の寝込みを襲って何をするつもりだ!?主殿」
「は?」
「まさか主殿!我の事を……」
何かしら妄想することを始めてしまったくさへ
九重は深々しい溜息をつきながら
「……馬鹿か、テメェは」
最早何から突っ込んでいいやらわからず
それ以上何もいわず、九重は大儀気に折っていた膝を伸ばし立ち上がる
「主殿、どちらへ?」
「顔洗ってくる。テメェも飯が食いたけりゃそっから出て来い」
「おお。もうそんな時間か」
どっこいしょ、と年寄りくさい掛け声で其処から這い出してくるくさ
鼻歌交じりに九重の先を歩いて行く
その後姿は、不可思議
一体、これは何なのか
今更ながらに、考えてみたりする
「……おい」
「どうかしたのか?主殿」
「お前、本当の処此処に何しに来たんだ?」
何か本当の目的が合え来たのでは、との九重へ
くさは何故か九重の間近にまで顔をよせながら
「……主殿」
深刻な声、そしてくさが徐に取り出してきた何か
そtれをまじまじと眺め見てみれば
「……何だよ、これ」
「見れば解るだろう。地球産の人参だ」
「人参は解る。これがどうしたって聞いてんだよ」
「……話せば長くなるぞ」
「出来るだけ簡潔に話せ」
「……善処する」
善処すると言いながら、
長々しく話す気満々なのか、居住まいを正すくさ
一つ咳払いをし、そして話し始めた
「……この人参を、われの星でも、育てたいのだ」
「は?」
「これだ。この色といい、艶といい、最高のニンジンなのだぞ!」
「……だから何なんだよ?」
「味も美味い!最高ではないか!!」
「だから?」
「コレの育て方を我に教えてもらいたい!!」
「はぁ?」
「主殿、頼む!わが星を助けると思って!」
しっかりと手を握られてしまい、九重は口元を引き攣らせ始める
握られた手振り払ってやろうにも意外にその力は強く
振り払う事が出来ない
「……あのな、言っとくが俺は農家じゃねぇし畑仕事なんてのもやったことねぇ」
「そうなのか?」
「大体、人参育てて何する気だ?」
「食べるのだ」
至極当然の返答
色々と突っ込み処満載なのだが
これ以上無駄なやり取りをするよりは、と九重は承諾してしまう
「取り敢えず、人参育ててみれば良いんだろ」
「良いのか!?主殿!」
「ただし、テメェも手伝えよ」
「当然である!」
腰に手を当て仁王立ちにたつくさを溜息混じりに眺めた後
九重は何を返す事もせず踵を返し
そのやり取りを微笑ましそうに眺めていた鈴へと向いて直りながら
「前に花植えてたプランター、まだあるか?」
その所在をとうてみた
「智一さん、何か、植えるんですか?」
唐突なソレに対しての当然の質問
九重は若干答え辛そうにくさの方をちらりみる
「くささんを、植えるんですか?」
「いや」
「じゃ、何を?」
「……人参」
溜息混じりに答えて返せば
鈴は何故人参なのかと小首をかしげて見せた
「……こいつが食料にしたいんだと」
「くささん、にんじん食べるんですか?」
この問いかけは九重の傍らで騒ぐくさへと向けたもので
九重が探し出してきたプランターへ、よじ登ってみせながら
「うむ。我たちの主食は人参なのでな」
膝を組みその中へと腰を据えながら
土を入れてくれ、と九重へと言って向けた

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫