《MUMEI》
ロッカー
「あー、開通、おめでとう」
腰を叩きながらユキナが言った。
そんな彼女を横目で見ながら、ユウゴはため息をつく。
「なに馬鹿言ってんだ。さっさと行くぞ」
「…ちょっと言ってみただけじゃん」
小声で不満そうにユキナは言うと、なぜか金づちを拾いあげ、引きずりながらユウゴに続いた。

「……それ、俺の頭に振り下ろすなよ」
真後ろに位置取ったユキナに、少なからず恐怖を感じる。
「変なこと言わなきゃ、大丈夫だと思うよ」

 ガラガラと金づちを引きずる音が通路に響き、余計に恐さを倍増させている。
ユウゴは堪らず立ち止まった。
「なに?」
「それ、貸せ。俺が持つ」
「信用しなって」
「いいから、貸せよ」
「わかったよ」
渋々、ユキナは金づちを手渡した。
ユウゴは重たい金づちを右手で持ち上げ、肩に担いだ。

 しばらく歩いた二人は、やっと目的のロッカーを発見した。
「…ねえ、これ?」
ユキナは首を傾げるようにしつ言った。
「ああ……多分」
頷きながら、ユウゴはガコンと金づちを床に落とした。

 ようやくたどり着いたそのロッカーは、上から落ちた天井の破片でひどく潰れていた。
「……何番?」
「ああ、えっと」
思い出したように、ユウゴは鍵を取り出した。
「……十三番」
「てことは…」
ユキナが上から順に番号を確認していく。
「ここだね」
そう言って指差したのは、グニャリと歪んだ小さなロッカー。
「これ、鍵使えるか?」
「無理でしょ」
「だよな」
ユウゴは床に視線を落とした。
「持ってきてよかったでしょ?」
「だな。しんどいけどな」
そう言って金づちを持ち上げる。
「じゃ、頑張って〜」
「またかよ。それ、やめろ。手元が狂っておまえを殴っちまうかも」
「黙ってます」
 口を閉じたユキナを確認して、ユウゴは再び金づちを振りかぶった。

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