《MUMEI》

 場所は道が二股に分かれる始発点。Vの字の丁度角の部分だ。
 見た目は、都会でもしょっちゅう見かける小太りした中年のオッサン。
 ハゲ散らかした頭と、裸であること、そして、鳩尾(みぞおち)より下が土に埋まっているというのが印象的だ。

「田舎の変態はずいぶん個性的なのね」

 呆れた目で見下ろし、私は言う。

「いきなりそんなこと言われたらオジサン傷ついちゃうなぁ」

 オッサンはへらへらと笑いながら、頭に植え込んだもやしの根っこをみたいな髪を掻く。

「あんたみたいなのはちょっと傷ついて然るべきよ、この露出狂のド変態が」

「仕方がないじゃないか、これがオジサンのスタイルなんだから」

「はぁ?」

 何を言うか。

「見ての通り、これがオジサンのありのままの姿なんだよ」

 オッサンは両手を広げ、さぁ見ろとでも言うように自分をアピール。
 私はそれにならって…というわけではないが、オッサンをまじまじと見る。
 そして、

「…私帰る」

 汗を含んだ胸毛を目にした瞬間、ウッときたので、私は口に手を当て踵を返した。

「ちょ、ちょっと待っておくれよ君!」

 しかし、呼び止められたので嫌々ながらも立ち止まった。

「よく見たら君は初めてみる顔だね。もしかしてオジサンを見るのも初めてだったりするかい?」

 聞かれたけど、私は黙っていた。もちろん初めて見る。こんなの何回も見たくない。

「だったら仕方がないね。ごめんごめん、先にオジサンの事を説明するべきだった」

「どう弁解されてもアンタを肯定する気にはなれないと思うけど?」

「まぁまぁそう言わずに、聞いておくれよ」

 私は嘆息した。
 今は行くところも家に帰る気も無いから仕方なく聞いてやる。普段ならこんなオッサンの相手なんか絶対しないのだけど。

「取りあえず自己紹介だね。オジサンの名前は田所さん、田所さんって呼んでくれたらいいよ」

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