《MUMEI》

「おかえり」

「今日は晩ご飯作ってあげるねー。調味料とかある?」

「あ、あぁテキトーに。つか何つくんの」

「えとね、今日はエビが安かったから」

「エビフライ?」

「ぶっぶー。エビチリでーす」

俺はエビフライがよかったのにな。満面の笑顔で言われると文句も言えず、せっせと冷蔵庫に食材を詰め込んでいる女子高生の姿をながめる。

「着替えてくんね」

「おー」

恋人同士とはいえ、キス以上には進んでいない仲なので着替えはトイレの中である。仕方ないだろ、俺が不甲斐ないんだから。

しばらくして例のよれたスウェット姿になると、さっそく準備にとりかかる。

「何か手伝うか?」

「あ、じゃぁこのエビ剥いてて」

「りょっかーい。って、どーやって剥くのよ」

「普通にエビ食べる感じだよ、頭取って身体剥いて」

簡単に言うけど、30匹以上いるぞ。

「あたし調味料混ぜてるから」

手伝おうって気はないんすね。手伝いの手伝いってワケわかんねぇか。

エビを黙々と剥いていると、野菜を刻む音がしてふと幸せな気分になった。一人暮らしの俺にはかなり懐かしい、優しい、音。

「手際いーな」

「出来るコでしょ!お母さん忙しかったから、中学くらいから自炊してたんだよ」

にんにくを刻みながら微笑む、母親を彷彿させる優しい笑顔。
やっぱ女は女だ、って早くエビを剥け俺。
何とか30匹のエビを剥くと、裸になったエビが熱されたフライパンの中に入れられて、チリチリ音を立てていた。

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