《MUMEI》
水着でマッサージ 1
「水着でマッサージ?」
栞里は怒った顔で大馬編集長に聞き返した。
「そう。もちろんビキニ」
「何であたしが?」
「これは栞里にしかできない仕事だよ。魔法の指を持つ男。刃山狩朗。突撃インタビューは体張ってナンボでしょう」
「ヤですよ」
ここは月刊誌「危ノーマル」の編集部。いつも悪ノリの大馬編集長に、栞里は翻弄されてばかりいる。
「しおりー。仕事選ぶなんて百万年と三日早いよ」
「水着なんて恥ずかしいですよ」
口を尖らせて嫌がるシャイな栞里。肩まで届く黒髪がよく似合う。
中年の編集長のセクハラ心を刺激する美形の栞里。強気の目に愛らしい唇。スリムでセクシーなボディだが、スレていない性格。
ドS編集長から見たら「パーフェクト!」らしい。
「とにかく、お断りします」
睨む栞里に、大馬編集長はわざと怖い顔で迫る。
「ことわるう? 何言ってんの。君はホントにわかってないね。世の中の流れが」
「編集長の流れなんて知りたくありません」
「僕の流れじゃないよ。編集者が世の中の流れを、キャッチ! しないでどうすんの?」
「……」
大馬編集長のオーバーアクションに栞里は押され気味だ。
「そんなねえ。男の前で裸になるのが平気な子が行っても面白くないでしょう。栞里みたいにパジャマ姿見られるのも恥ずかしいっていうシャイな女の子だから絵になるんじゃなーい」
「主旨がおかしいですよ」栞里は負けずに言い返した。「そういう考えは厳密にいえばセクハラですよ」
「セクハラって、懐かしい」
大馬が笑う。栞里は目を丸くして食ってかかった。
「懐かしくないですよ! 勝手に過去形にしないでくださいよ! 何が世の中の流れですか! それが主流だったら女性は街歩けませんよ!」
大馬は無言でいたが、デスクをバンバン叩いた。
「そんなことして机叩いたって黙りませんよ」
「これは違うよ、タップアウトだよ」と笑顔でバンバン机を叩く。
「タップアウト?」
「ギブアップだよ」
「そうやって話をはぐらかさないでください」
「言葉の顔面パンチ連打は良くないよ栞里」
笑顔の編集長を睨む栞里。ある意味毎日見られる光景だ。
「編集長。男の前で裸が平気な女の子ってあたしのこと?」
堀未香子が自分のデスクから立ち上がった。栞里に負けない美人でスレンダーな28歳。大人の色香を漂わせる。
「違うよ」大馬は汗をかきながら目が泳ぐ。
「編集長。夏なのに汗かいてますよ」
「いや、きょうはやけに暑くてって…夏だからいいんじゃないのう!」
「アハハハ」未香子が楽しそうに笑う。
「栞里チャン。嫌ならあたし、その仕事やりたいな」
「え?」
「魔法の指。刃山狩朗。メチャクチャ気持ちいいらしいよ」
栞里は困った。
「あ、いや、悪いですよ。未香子さんに押しつけて」
「押しつけてなんかいないよ。刃山狩朗のマッサージただで受けられるんだから。落とされないように気をつけなくっちゃ」
「そうだよしおりー。君は贅沢なんだよ」
栞里はムッとした顔で編集長を見た。

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