《MUMEI》
2
大馬編集長は名刺を栞里に渡した。
「ほら、これが名刺」
「はやま…はやま?」
「はやまかりろう。狩られて来な」
「狩る?」
「ジョーク、ジョーク」
笑う編集長を栞里は睨んだ。

「どうも、初めまして。刃山狩朗です」
人なつっこい笑顔。小太りで短い頭髪。栞里はイメージと違うと思いながら、笑顔で挨拶した。
「初めまして。細矢栞里と言います。よろしくお願いします」
「栞里さんとお呼びすればいいですか?」
「あ、はい」
「いやあ…」刃山は顔面を笑顔にして頭をかいた。「まさかまさか、こんな美人さんが来るとは思いませんでしたよ。僕はついてる」
「よく言いますよ。美人なんて言われたことない」
「いやいやいや。僕は生まれてこのかた40年。一度もお世辞なんか言ったことありませんよ」
「ありがとうございます」栞里は照れた顔で頭を下げる。
「栞里さんは本当に魅力的です」
誉めまくる刃山狩朗の目が危ない。栞里は緊張した。
「では早速、水着に着替えてもらいましょうかね」
「恥ずかしいですね」栞里は笑った。「服のままじゃダメですか?」
「ダメー!」
「そこを何とか」
「ダメー!」
断固たる姿勢に負けた栞里は、水着に着替えた。
「恥ずかしい」
赤面する栞里。鮮やかなブルーのビキニ姿を見た刃山は、もともとないに等しい理性が万里の果てまで飛んでいった。
「かわいい!」
「そういうこと言わないでください」栞里が真顔で言った。
「栞里さん、凄いセクシーですよ」
「インタビューの主旨からズレてますよ」
「水着をずらす?」
「あ、それ以上横道にそれるなら帰りますよ」
「わかった、わかった、もう言わない」
刃山は両手を出して慌てふためいた。栞里は身の危険を少し感じ始めていた。
「では、まずうつ伏せに寝てください」
「はい」
栞里はベッドにうつ伏せになった。胸のドキドキが激しくなる。刃山がお尻に乗って腰を指圧する。
こんな危険な仕事を女子社員にやらせるのは間違っていると思いながらも、栞里は頑張ってインタビューをした。
「マッサージ師になろうと思ったきっかけは何ですか?」
「趣味と実益を兼ねるためです」
「そのまま書きますよ」栞里はムッとした。
「どうぞ。それより栞里さん。いい体してますね」
「ですから」
刃山狩朗は栞里の脚を揉んだ。これは気持ちいい。さすがプロだと栞里は少し感心した。
「栞里さん。顔はかわいい、性格はいい、ボディはセクシー。モテて困るでしょう?」
脚を揉む手が段々と内股へ移動する。栞里は緊張感が増した。
「あたしの話はいいですから」
「交わすなあ」
刃山の手は太ももをマッサージするが、指が内股に触れる。
「もちろん彼氏は月曜日から金曜日まで並んでるんでしょ?」
「まさか」栞里は笑った。
「土日はお休み」
「彼氏はいません」
「あ、わかった。理想が富士山より高いんだ」
「そんなことはありません」
また逆インタビューになっている。栞里は何とか切り返した。
「マッサージのときは、女性客は水着なんですか?」
「全裸だよ」
「嘘!」栞里は驚いて振り向いた。
「栞里さんもスッポンポンになります?」
栞里は焦った。裸にされたら危ない。
「すいません、きょうは水着で許してください」
「かわいい!」

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