《MUMEI》

 私はゆっくりとオッサンのもとに近づいていく。
 こんなに自信満々に嘘を貫き通されると、なんとしてでもその嘘を暴きたい。オッサンが本当の事を言ってるかも、という可能性は微塵もなかった。
 でも確かめるといってもどうしたらいいものか。
 ちょっと考えた末、オッサンの周りの土をトントンと足で叩いてみた。
 故意で埋まっているとしたら、地面を掘り起こしたせいで土が柔らかくなっているはずだ。

「あれ…」

 しかし土は固かった。それに、よく見たら掘り起こした形跡が一切ない。
 私は目を丸くした。
 しゃがみこみ、地面をよく観察するが、やはり何も手を加えられていない、固く乾燥した地面だった。

「信じてくれたかい?」

 相変わらずヘラヘラとした面のオッサン。
 私はムッとして更にオッサンに近づき、オッサンの両脇に腕を差し入れた。

「何をする気だい?」

「引っこ抜いてやるわ」

 私はどりゃあ!っと全力でオッサンを引き上げた。

「痛たたたたたた!」

 オッサンは苦悶の声をあげる。
 しかし、びくともしない。何度かに分けて全力の引き上げを試みるが、抜ける気配すらない。
 段々と疲れてきて、私はゼェゼェと息を切らした。
 そのとき

「最近の女の子ってこんなにいい匂いがするんだね」

 オッサンがそんなことを言った。
 まず驚いたのは、オッサンの声が耳元で聞こえたということ。
 ハッとなって視線を横に向けると、そこにはオッサンの顔があった。
 オッサンの嘘を暴きたいばかりに、今の状態の事を何も考えていなかった。
 怖気が走った。

「なんだかオジサン、どきどきしちゃうなぁ」

「イヤァ!」

「んがっ」

 私はオッサンの面に掌底を食らわし、飛び退いて尻餅をついた。
 ハァハァと息を切らし、無意識に自分の腕を見る。肘の内側がびっしょり濡れていた。

「オジサンのこと分かってくれたかい?」

 鼻血を垂らしたオッサンは聞いてくる。

「キャーーーー!!」

 私は全力でオッサンの頬をひっぱたいた。バチーン!という音がこの静かな村に響き渡る。

「へぶっ!」

 オッサンは妙な声を漏らし、首をぐりっと横に向けた。
 私は立ち上がって、すぐさま踵を返し、家の方に向かって走り出した。

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