《MUMEI》

布団の上に立っていた七生は視界が悪くなりバランスを崩して俺を掴んだまま倒れた。


痛い。七生がクッションじゃあ硬すぎる。

しかもレスラーばりに手足を絡めて来て動けない。

「離せよ、」


「離したら逃げるだろう。いいからこのまま話聞いとけ。

二郎は水瀬とのこと何か誤解している。言い訳になるからあまり触れないけど、水瀬とはあくまでも友達だから。恋愛対象として見たことない。

当然あの時キスしたのは水瀬からだし。互いにやましい気持ちはなかった。」
七生がスピーチを読むようにハキハキ言っている。
きっと俺を真っ直ぐ見ているに違いない。




「なんか、いつかは水瀬と俺はこうなるんじゃないかって気がしてた。
水瀬と俺はいつもどこかズレてて、だんだん溝がくっきり出てきたんだ。

多分、俺が水瀬を想っている何千分の一しか水瀬は俺に気持ちを許してくれなかったんだな。」
暗いせいか、落ち着いて頭の中で考えていた言葉が次々出た。

本当は七生が悪くないのも知っていた。ただ水瀬と別れる覚悟がなくて逃げてただけ……




七生が更に強く俺を締める。


「ギャ!」


あまりの苦しさにアッパーカットをする。七生の顎にクリーンヒット……久々に取っ組み合いの喧嘩になった。


よく見えないのに胸ぐらを掴んでの頭突き合いまで発展。
でも、七生の石頭に勝てるはずない。タックルするつもりが不可抗力でふらついて、また七生と倒れた。


顔が塞がる、プロレス技に持ち込まれるのか?頭ぐらぐらする……、痛いぃ。……息が出来ん。


「……べはっ!天井回る……」
さっきと同じ位置に戻ってるし。

昔はよくこうして乙矢と三人で密着して寝てたっけ。


「えーと……、俺の勝ち?」

耳元で七生は小さく呟く。なんだ勝ちって?



「いーよもう七生の勝ちで

近いからかな、七生の声、凄くよく聞こえる。今日のマイクより性能いーわ……心音五月蝿いけど。

そうだ、最初の朗読でミスしそうになったのって俺のせい?」

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