《MUMEI》 今生と言う名の駅結局人は、一番居心地の良い場所へと還って行くのかもしれない。素直な子供が素直に家へと、帰るように。愛人の前で大口を叩く男が、それでも最後に、妻の元へ帰るように。 だとしたら『帰れない者たち』『帰る場所の無い者たち』と言うのは、この上なく不幸な人々の事を言うのだろう。 しかし。愛する人を喪った時『ああ、彼は還って逝ったのだ』とは、どうしても思えなかった。 私は今を生きている。 貴方が居なくなった今も、私は生きている。 それは多分考えるより、複雑な事では無いだろう。 多分、思うより、簡単な事では無いだろう。 ならばそれで良いと割りきる以外に、出来る事などありはしない。 あの人を喪った雨の街で、私は再び考える。還る場所なんて、初めから無いのかも知れない、と。 例えばこの世界そのものがただの駅で、列車に乗ってやって来た私たちは、再び此処から列車に乗る。『さよなら』は列車を乗り換えるだけの事で、次の駅に向かうだけの事。 そう。何もかもが。 一期一会で出来ている。 肉体を重ねても快楽を共有しても。それは所詮短い夢で。永遠を誓っても悠久を願っても。死と言う別れを避ける事は出来ない。 ならば、やはりこの世界は『今生と呼ばれる駅』としてあるだけで、結局、私たちには最初から、還る場所なんて何処にも無い。 それは、 なんて哀しい事。 還る場所を持たない者たちが、夜通し騒ぐ駅。 『ようこそ』 と、言われても。 嬉しく無いでしょう。 前へ |次へ |
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