《MUMEI》
2
「どうもどうも、初めまして。千変剥です。よろしくお願いします」
「細矢栞里と申します。よろしくお願いします」
玄関で挨拶を済ませると、早速アトリエに案内された。
38歳独身。パーマで盛り上がった髪。笑顔を絶やさない千変剥。
優しそうな感じの人だと思ったが、やはり家で二人きりというのは緊張する。
真顔の栞里に千変は話しかけた。
「それにしても、こんな魅力的な方が来られるとは、きょうはラッキーです」
「そんなこと」栞里は照れたがすぐに質問した。「早速ですが、どうして女性の裸を描こうと思ったのですか?」
「いい質問です」千変剥の目が光る。「でも答えは簡単。女の裸体。これは神秘です」
「神秘?」
「これほど美しいものがほかにありますか?」
「はあ」
「芸術の美を追求したらここに行き着きますね」
自信満々に語る千変剥。しかし栞里は溜め息混じりだ。
「芸術の美ですか?」
「さっきから何か、共感しない目で私を見ていますね」千変が笑顔で睨む。
「いえいえ」栞里は少し焦った。
「わかりますよ。あなたは女性の裸体を毎日見ているから感じないのかもしれません」
「あ、そうかもしれません」
「でも男にとったら女の裸はロマンですよ。もちろんこれはヤらしい意味ではないですよ」千変剥は乗らない栞里に構わず力説を続けた。「裸って言うとすぐヤらしいというのはナンセンスです。かといってエロスと無縁かといったらそうでもないんです」
「難しいですね」
「難しく考えることはありません。全裸の美女。人に見られるのは恥ずかしい。その恥じらいの顔!」
千変剥が陶酔しながら喋り続ける。栞里は他人ごとのような顔で聞いていた。
「女体ならではの美しい曲線。しなやかさ」千変は両目を閉じて笑顔で首を左右に振ると、パッと目を開けて栞里を見た。「特別なものでしょう」
「はあ…」
ガクンとなった千変は、笑顔で文句を言う。
「少しは感動してよ」
「あ、あの、モデルの女性について質問してもいいですか?」
「何なりと。あなたのような美しい方の質問ならば、何でも快くお答えしますよ」
「モデルはやっぱり若い女性ばかりですか?」
「若いと言っても年齢じゃないと思うんです」
「はい」
栞里が初めて共感の笑顔。千変は勢いづいた。
「40代でも美しい女性はいます。だから若くて美しければ年齢は関係ありません」
「素晴らしい考えだと思います」
「一応下は19歳以上。これは厳守していますね」千変が誇らしげに言った。
「なぜ19歳以上なんですか?」
「そりゃ18禁と言うじゃないですか。18歳未満の少女を全裸にしちゃダメですよ」
「ちゃんと考えているんですね」
「考えてないと思いました?」
「いえいえ」栞里は笑顔で否定した。

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