《MUMEI》

 田所さん…

 そのワードを聞いて身の毛がよだつのを感じた。

「誰ですか?それ…」

 知らないフリをする。

「向こうにいなかったかい?」

 お婆さんは首をかしげ、今さっき私が走ってきた方を指差す。

「ど…どんな人ですか?」

「特徴的だからすぐ分かると思うんだけどね。地面から生えてるオジサンだよ」

「地面から生え…」

 すぐさまさっきのオッサンが頭に浮かんだが、ぶんぶん首を振って霧散させる。

「どうしたんだい?」

「いえ、なんでも…そんな人がいるんですか?ははは、変わってますね…」

 苦笑する。

「確かに変わってはいるね。でも、とてもいい人なんだよ。なんでも相談に乗ってくれるしね」

「はぁ…」

「茜ちゃんも、もし何か悩みがあったら田所さんに相談するといいよ」

 お婆さんは嘘偽りのない微笑みを浮かべ、諭すように言う。

 私はどう返すべきが分からず、ただ笑ってごまかしておいた。

「それじゃあね。私ぁ行くよ、今後ともよろしくね茜ちゃん」

 お婆さんはそう言うと、ゆっくりとした足取りでその場を後にした。

 私は木に背中を預け、軽くため息をついた。

「あのオッサン…この村では当たり前の存在なのかしら…?」

 ひとり呟く。

 頬を冷たい汗が伝っていく。

「悪い夢を見ているのよ…きっとそうよ…」

 頭痛がしてきたので、私は額に手を当てる。

 そして、ふらふらした足取りで家路を歩き始めた。

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