《MUMEI》
「透子・・・。ごめん。」
彼の口から出た自分の名前に驚いて、
頬に触れていた手を離した。
「なんで?なんでそんなに泣いてるの?」
彼の泣いてる姿を見るのは初めてではなかったはずだけど、
小刻に震える肩や
うなだれる頭や
頬を伝って流れ落ちる涙を
初めて見た気がした。
胸が締め付けられる。
こういうことなんだって
その言葉の意味を知った。
私は、
うなだれる彼を抱き締めた。
声にならない声をあげて
ただ
泣いた。
彼にはもう私の姿は見えない。
どんなに声をあげて泣いても
この声はもう
聞こえない。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫