《MUMEI》
4
千変剥は、改めて栞里の服装を見た。スカートではない。ラフな感じの格好だ。
「栞里さん。では服を着たままで構いませんから、どうか描かせてください」
そこまで言われて断るのも気が引ける。刺激的なショートスカートではないし、栞里は承諾した。
「わかりました。で、どうすればいいですか?」
「ベッドに乗ってください」危ない笑顔。
「ベッド?」栞里は緊張した面持ちでベッドを見た。「いいんですか、乗っちゃっても」
「はい」
栞里は遠慮がちにベッドに上がった。
「寝てください」
「ヤです」
「え?」千変は怯んだ。「なぜです?」
「強要するなら帰ります」
「まさか。強要なんかしませんよ」千変は慌てると、笑顔で指示した。「じゃあ、片足を伸ばして片足を曲げていただけますか?」
「こうですか?」
栞里は素直にポーズを取った。千変はますます顔面笑顔だ。
「いやあ。絵になるなあ。これで全裸だったら」
「聞こえなかったことにします」
「厳しいなあ」
怖い顔で睨む栞里に、千変剥は笑顔で話しかける。
「笑ってください。スマイル、スマイル」
栞里は言われた通り笑みを浮かべた。キュートなスマイルに千変剥は舞い上がる。
「動いちゃダメなんですよね?」
「少しくらい動いても大丈夫ですよ」
千変は素早くスケッチを始めた。栞里は唇を結んだまま笑顔を向けている。
「喋ってもいいですよ」
「あ、はい」
「いやあ、綺麗だなあ。かわいい。美しい!」
「よく言いますよ」
感嘆しきりの千変に栞里は少し照れた。彼女も女の子。ルックスを誉められるのは嬉しい。
「でも、モデルさんて全裸なんですよね?」
「そうですよ」千変のペンがスピーディーに動く。
「結構平気なものですか?」
「いや、恥じらいがあったほうがいいですよ。女性の恥ずかしいっていう感じは絵になりますから」
栞里がさらに刺激の強い質問をする。
「どんなポーズを取らせるんですか?」
「ハハハ。胸と下を腕や枕やシーツでさりげなく隠してあげます」
「優しいんですね」栞里が笑う。
「いやいやいや。磔にすると思いましたか?」
「ハリツケ?」
「嘘ですよ」
「それは最低ですね」
「しませんよ、そんなこと」
「アハハハ」
栞里が明るく笑う。千変剥は感動した。
「栞里さんほど魅力的なモデルは、正直ほかにいません」
「千変さんは口から生まれたんですか?」
「何で知ってんの?」
「キャハハハ!」
打ち解けてきたか。千変は調子に乗る。
「実物には勝てないけど美しい絵になりましたよ」
「でも、モデルと画家の信頼関係ができてないと、画家の前で裸になるのは無理ですよね」
「じゃあ、僕と栞里さんの信頼関係ができたら…」
「あたしのことは諦めてください。絶対裸にはなりませんから」栞里は笑顔でキッパリ言った。
「振られたか」
「振ってません。自信ないし」
「何をおっしゃるウサギさん」
(…古い)

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