《MUMEI》

一体どうしてやればいいのか、皆目解らなかったが
だからこそ、今自分が出来る限りの事をやろうと、豊原は桜木へと何度となく話しかける
空気の熱さに喉を焼かれそうになりながら
それでも豊原は話し抱える事を止める事はしなかった
「ね、言って?私は如何するべきなのかを」
何度も何度も、問い掛けてやる
暫く続けた豊原の目の前
白い人の様な影がふわり現れたて
豊原はその人影へと手を伸ばしていた
『……華巫女?』
触れられる筈のない幽体の様な身体を
だが豊原はしっかりとその腕の中へと抱く
「……どうすれば、いい?言って。じゃないと、私何の為にこの世界に来たのか解らなくなっちゃう」
苦笑の様なソレを浮かべて見せる豊原へ
人影は手を出す様言ってくる
その言葉に従い、手を差し出してみれば
其処に、大量の桜の花弁が降り積もっていった
視界一面がソレに覆われ
何も見る事が出来なくなってしまった一瞬の後
漸く見えた景色はそれまで居た場所ではなく
朱の花弁舞う、あの場所だった
「……何で?」
燃える火の赤が今は遠く
だがはっきりと見えるソレに、豊原は愕然と膝を崩す
「……どうしてよ!?」
何故一人だけ逃れたかのように此処にいるのか
一体、どうして
「……刀弥、刀弥ぁ!」
『……やっぱり、役に、立たなかった』
叫び、喚く豊原の目の前
白い影がまた現れ、豊原の眼で人の型を成した
『……愚か。こんなヒトの為に、己が身を、犠牲にする』
喉の奥で笑う様な声を上げるソレに
豊原はそれまでにない程の怒りを覚え
完全に姿を現したところを見計らって平手打つ
頬を打つ乾いた音
相手は旬なkんなにが起こったのか解らず、呆然と豊原の方を見やる
「……私を、あっちに戻して」
『何故?役になんて、立たないのに』
「それでも!私は、助けなきゃいけないの。……あんた達を」
『誰と、誰を?』
「アンタと、もう一人桜の木」
改めて口にし、その決意を固める豊原
兎に角戻らなければ、と辺りを見回せば
その近くに都合よく乗り捨てられていた馬が居た
「っ!」
豊原はそのたず尚を掴むとその背へと乗り上げ
美味の腹を蹴った
解らないままたず名を操る豊原に馬が従順な筈もなく
「お願い!早く、行かなきゃいけないの!!」
だから言う事を聞いてほしい
鬣に懸命にしがみつけば
その想いが伝わったのか、馬の動きが僅かに変わった
「……ありがと」
馬になど乗った事がない豊原にでも扱いやすいソレになった事に僅かに笑みを浮かべ
あの場所へと戻る為、懸命に手綱を引く
近く見えてくる火の朱
その熱に巻き込まれる事がない様途中で馬を下り、走って向かえば
刀弥ともう一人が、獲物同士で競り合っているのが見えた
「刀弥!!」
豊原の声に瞬間張りつめていた気を緩ませてしまった刀弥
出来てしまったその隙を、衝かれない筈はなく
小高い金属音を立て、刀弥のソレが弾かれた
「……終わりだ」
丸腰、無防備になった刀弥へ振り下ろされる相手の刀
何とかかわそうと刀弥が策を講じるより先に
目の前に、豊原が飛び出す
刀弥の身体を抱き込む様に相手へと背を向けた
「!!」
だがすぐに、変えたばかりの体勢を変えられ、刀弥へ抱き込まれる格好に
肉を抉る嫌な水音と、目の前へ広がる朱
頬に眼で飛んで散ったそれに、豊原は目を見開く
「刀、弥……?」
「……本当、に無茶ばかりするな。貴方は」
正面に見える刀弥の顔
型に深々と刃を戴いてしまったその痛みに表情は歪み
だが豊原へは何とか笑みを浮かべて向けていた
「……刀弥。ごめ、ん。私……」
謝罪の故t場を口にしかけた豊原の身体を
途中、遮る様に抱く腕を更に強める
「無事で、良かっ――」
痛みに戦慄く言葉も最中
型を抉っていた刃が引き抜かれ
血が更に濃く、赤黒く流れ始めた
余り目にした事のない血の色とその臭いを前に
豊原は何をすることも出来ず
唯崩れ落ちる刀弥の身体を受け止めてやるしか出来ない
「……無様、だな。さて、華巫女様」
此処で言葉を区切り、相手は徐に豊原の手首を掴み上げる
「華巫女としての役目、はたして貰おうか」
無理やりに引き寄せられ、その顔が間近
手が豊原の顎を捕らえに掛かり、その手を何とか振り払い

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