《MUMEI》 樹は手の中にあるメモの指定時間通りに風俗店の並ぶ怪しげな裏通りに隠れていた。 アラタに保健室のときに布団の中で渡されたのだ。 人の気配は全くない。表の路地では網膜が焼ける程にギラギラした電飾がここの騒々しさを引き立てた。 ゴミの山の影に身を潜める。多少の悪臭は堪えていた。暫くすると足音が聞こえた。 「白縫…………返事をしてくれよ」 男が誰かを呼んでいる。男の顔はマフラーを巻いているので解らない。 まだ秋にもなっていないむしろ、蒸し暑いくらいだ。そんな日に厚着をして、妙である。 女が表通りから入って来る。死角であっても樹は更に体を屈んで隠れた。 「教えてくれるって言った」 逆光が彼女の形をなぞっている。まだ若い。 櫻木女子の制服 そして樹は確信を持った。声に背格好、立ち姿、間違えるはずがない。 紛れも無い、若菜がそこに居た。 前へ |次へ |
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