《MUMEI》

「行ってきまーす」


ばあちゃんちから二駅向こうの大学に通って、もう二年になる。


この町にも、ようやく慣れてきた。
友達もできた。
勉強も頑張ってる。


でも、心のちっさい穴はふさがらないまま。
たぶん 一生ふさがることはないだろう。


ベンチに座って、バスを待つ。


ああ、今日もイラつくくらいの快晴だ。


キキィィー


立ち上がり、乗り込もうとする。
前にいる客が入りきるのを待つ。
何人か客が降りてくる。


上がろうとしたそのとき、グイッと腕をつかまれた。

「乗らないのー?」


よく見る運転手さんが尋ねてくる。


「乗りません」


俺じゃ、ないよ…
今の俺が言ったんじゃない……



「やっと見つけた」


大好きな、ずっと聞きたかった声が、耳元で囁く。


「二年も探させやがって…」




わけがわからなくて、
何が起こったのかわからなくて、


だけど、
一つだけわかるのは、


この先、この空がどんなに快晴でも、


もう、苛立つことはないんだ…ってこと。



背中から伝わる温もりに、いつのまにか、頬を伝うものがあった。

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