《MUMEI》
7
「編集長!」
「はい」
栞里は編集部で大馬編集長を責めていた。
「もっとまともな仕事はないんですか!」栞里は怖い顔で迫る。「あたしを危険な目にばかり遭わせて。わざとですか?」
「まさかまさか」大馬は目を丸くして否定した。「大切な栞里にそんなことするわけないでしょう」
「よく言いますよ。あたし、裸にされるところだったんですよ!」
「いやあ、そんな人物とは思わなくて…モゴモゴ」
「モゴモゴじゃないですよホントに。ふざけないでください」
そこへ、もっと怖い掘未香子が来た。
「編集長」
「なーにー?」
「今回はガツンと言わないとダメですよ。編集長が言わないなら、あたしが警察沙汰にします」
「ちょいちょいちょい待ち」大馬は本気で慌てた。「警察ってそんな、大げさにするのはやめようよ」
「大げさじゃありません!」栞里が怒った。
「わかる、わかる、でもね」大馬は弱気な笑顔で二人をなだめようとする。「千変剥の画家生命は終わるよ。もちろん本人が悪いんだけど、栞里はその覚悟がある?」
栞里は編集長を睨んだが、確かに人を訴えるには、それなりの覚悟が必要だし、裁判所も警察も逆恨みから守ってくれるとは限らない。
「じゃあ、編集長がビシッと言って来てください。今寝てますから」
「俺は言うよ、悪いけど」
「ホントですかあ?」未香子が笑う。
「何ミカコー。俺は言うときは言うよ。テメー、俺の大切な女子社員に何すんだ、え、え、えって」
「まだふざけがありますね」栞里が睨む。「顔にも声にも心にも」
「心って何。俺のハートがふざけてるって言いたいわけ?」
「はい」
「オオオ…白鳥の湖!」
「同じことしないでください!」栞里は編集長の背中を叩いた。「グルですか?」
「なーにー? これは僕のオリジナルよ」
「そういうくだらない話はいいですから、ちゃんと注意して来てください」
ムッとする栞里に笑う大馬編集長。しかし未香子が鋭く突いた。
「ところで編集長。刃山狩朗にはガツンと言ったんですか?」
「あ、当たり前じゃん。もうね。テメーこのヤローって、怒りの鉄拳から延髄斬り、卍固め…」
「もう技で嘘だとわかるじゃないですか!」栞里がムッとした顔で迫る。
「バレた?」
「笑うな! 重大な問題なんですよ」
栞里はおなかに手を当てた。本当に怖い目に遭ってからでは遅いから真剣に言っているのに、どうやらセクハラ編集長には通じていないらしい。

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