《MUMEI》 危険な混浴 1「栞里、栞里はどこ?」 大馬編集長が栞里の姿を探す。未香子を始めほかの編集者も顔を上げて辺りを見渡す。 栞里が編集部の部屋に入ってきた。 「あ、しおりー、仕事だよ仕事」 「今度はまともな仕事なんでしょうね?」栞里は怖い顔で笑顔の編集長を睨んだ。 「何言ってんの栞里チャン。突撃インタビューに危険はつきものでしょう」 「安全性が保証されない仕事なら断る権利があります。一応女ですから」 「一応女って、栞里ほど女らしい女はなかなかいないでしょう」 「そんなこと言って誤魔化してもダメですよ」栞里は警戒を解かない。 大馬はオーバーアクションで話し始めた。 「しおりー。駆け出しの時代にいろんな経験を積むからこそ、君が編集長になったときにさあ、その一つ一つがすべて生きてくるわけでしょう」 栞里は真顔で聞いていた。編集長は続ける。 「ある日思うわけ。無意味と思ってやった仕事が、実は意味があったと気づく。ふと窓の外を見ると夕日が栞里のキレイな顔を照らす」 栞里は無表情で聞いている。 「ああ、私はこの仕事を成就するために駆け出し時代に突撃インタビューをやっていたのか。すべては繋がっていた!」 踊る編集長を栞里は呆れ顔で見ている。 「BGMが静かに流れるなか、打ち震える感動を味わい、栞里は心の中で囁く。ありがとうございます。編集長」 「思いませんよそんなこと」 「オオオオオ……白鳥の湖!」 「いいから!」栞里が怒った。「仕事は何ですか?」 大馬は満面笑顔で言った。 「混浴インタビューだよ」 「お断りします」 「ちょいちょいちょい待ち。話は最後まで聞こうよ栞里」 「はあ…」 「そういうやる気のないため息吐くとハアハア言わすよ」 「セクハラですよ!」栞里が睨む。 「しおりー。これは君にしかできない仕事だから君にお願いしてるんだよ」 栞里は唇を結ぶと、編集長を真顔で見た。 「何かわいい顔して」 「混浴インタビューって、裸になるんですよね?」 「お風呂入るのに裸にならないでどうすんのう」 「水着じゃダメですか?」 「それは邪道でしょう」 栞里は俯いた。 「何であたしばっかり、そういう危険な仕事を」 「今回は大丈夫。カメラマンがボディーガードとしてつくから」 「ボディーガード?」 「そう」編集長が怪しい笑顔。「何しろカメラマン兼ボディーガードはこの僕だから、絶対安心安全でしょ」 「お断りします」 栞里が自分のデスクに戻ろうとするので大馬は追いかけた。 「ちょいちょいちょい待ち。混浴って言ってもほとんどおじいさんだよ」 「でも、全裸は恥ずかしいですよう」栞里は赤面して口を尖らせた。 「女の子はもちろんバスタオル巻くのアリだよ」 「絶対ですか?」 「絶対だよ。もっと仲間を信用しなきゃあ」 「仲間って言葉ほど幅広い意味を持つ言葉もないですからね」 栞里のイヤミを大馬編集長は承諾と受け取った。 前へ |次へ |
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