《MUMEI》
2
大馬編集長は栞里をなだめた。
「まあまあまあ。仲良く行こうよ栞里チャン。旅館で一泊するから小旅行だよ」
「部屋はもちろん二つとってくれますよね」栞里は心配になり確認した。
「この不景気な時期に何言ってんの」
「不景気は関係ありません」
「もったいないじゃなーい」
「じゃあ行きません」
栞里が背を向けるので大馬は慌てた。
「わかった、わかった、二部屋とるから」
「当たり前のことです」栞里は睨んだ。
「そんなに怒んないの。全部ジョークなんだから」
「冗談にならないからいちいち確認するんです。向こう着いてやっぱり一部屋しかなかったら直帰しますよ」
「ダメだよ」
目を丸くする大馬編集長に栞里は激しく迫った。
「ダメだよじゃないですよ。二部屋とればいいだけの話です!」
堀未香子は嬉しそうな顔で口を挟んだ。
「編集長、ダメですよ、栞里チャンに夜這いをかけちゃ」
「ミカコー。僕は無類のジェントルマンよー。夜這いなんて、発想すらないよ」
しかし栞里は夜這いと聞いて身の危険を感じていた。
「編集長、そんなことしてみなさい。本気で顔殴りますよ」栞里は拳を見せて編集長を睨んだ。


ついに栞里は、編集長に連れられて混浴旅行へ。旅館では約束通り二部屋用意されていた。
二人は早速仕事にとりかかる。
大馬編集長はカメラを回し、栞里はバスタオル一枚で混浴の中に入った。
湯船には70歳以上の男性が数人。それでも栞里は緊張した。顔が赤いのは湯煙だけのせいではなさそうだ。
「君若いね」
「いえいえ。お父さんはよく来られんですか?」栞里が笑顔で聞く。
「たまにね」
「混浴ってどんな感じですか?」
「ははは。お嬢ちゃんみたいな若い子は来ないよ」
「ここはばーさんばっかり」
「ははは」
「そんなこと言っちゃダメですよ」
栞里は終始ニコニコしていて打ち解けた雰囲気になり、談笑の華が咲いた。
そのとき。
「お、何何、テレビ?」
「取材?」
不良っぽい若い男が三人入ってきた。栞里は笑顔を消し、一気に緊迫した。
「かわいい!」
「女子アナ?」
「いえ、違います」
無視するのも危険だと思い、栞里は丁寧に答えた。
「君かわいい!」
全裸の男たちに囲まれ、栞里は震えた。胸のドキドキが止まらない。
「あ、湯船にタオル巻いて入っちゃいけないんだよ」
男がバスタオルを掴んできたので栞里は慌てふためいた。
「やめてください!」
「そういうルールなの」とまたバスタオルを剥がそうとする。
「ちょっと何するんですか、やめてください!」
栞里ピンチだ。

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